地域コミュニティ |
Agricultural Communities in China |
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ローカルコモンズ |
Local Commons |
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中国南部雲南省剣川県では、農業、牧畜、窯業が盛んです。地域コミュニティの男性は、子守をよくします。ジェンダーの上からも興味深いです。そして、子守をしながら,牛の放牧しますが、牛は畦道の草を食べています。これが、ローカル・コモンズです。 このページでは、森林破壊や森林観測に関連して、昔話『桃太郎』冒頭の「おじいさんは、山にシバ刈りに、おばあさんは、川に洗濯に」を人間環境学の視点から考えてみましょう。 浄水場、上水道、洗濯機がない昔の話です。貧しいお婆さんは、水のある川まで衣類を洗いに行ったのでしょう。では、お爺さんが刈った「シバ」とは何でしょう。山に「芝」が生えているなんて不思議だと思いませんか。
「ゴルフ場の芝刈りや代官所庭園のシバ刈りにお爺さんが雇われていたんだ----」と思う人はいませんよね。おじいさんは,地主のもつ牧場の牧草刈りに駆り出されたのでしょうか。 中華人民共和国南部に位置する貴州省は、一人あたりの所得が最下位の最貧省ですが、その中の山岳地域にある黎平県山村に10日間ですが滞在して調査しました。その調査を元にして、シバ刈りに関して、解説します。 国連農業機関FAOの森林統計を利用して、熱帯林など世界の木材生産の70%が薪炭であり、環境学や開発経済学には素人の評論家だけでなく専門家ですら「地方の貧しい世帯が、薪を取るために森林を次々に伐採している」と主張しています。専門家ですら、日本昔話『桃太郎』冒頭にある「おじいさんは山にシバ刈りに、おばあさんは川に洗濯に」という箇所を理解できなくなっているのが現代社会です。
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昔話「桃太郎」 |
Momotarou |
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昔話「桃太郎」冒頭で「おじいさんが山にシバ刈りに、おばあさんが川に洗濯に行きました。---」とあります。水道や洗濯機がない昔の貧しいお婆さん、水のある川まで衣類を洗いに行ったのでしょう。では、お爺さんが刈った「シバ」とは何でしょう。 おばさんたちは、手に棒を持って、牛を追いながら、段々畑,棚田を上ってゆきます。(⇒
棚田学会)
貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州の地図
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牛飼い |
Raising Cattle
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牛は,あぜ道や山の傾斜地で草を食べながら歩きます。牛追いは、餌の草を食べさせる目的で、自由に草を食べさせることのできるコモンズを求めて、里山に入ることです。 日本では、
パンプローナの牛追い祭 (サンフェルミン祭)のイメージよりも、世界の牛追いにも目を向けてください。
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ジェンダー |
Gendar |
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昔話「桃太郎」冒頭で「おじいさんが山にシバ刈りに、おばあさんが川に洗濯に行きました。---」とあります。水道や洗濯機がない昔の貧しいお婆さん、水のある川まで衣類を洗いに行ったのでしょう。でも、お婆さんが柴刈りにいってもおかしくはないし、昔の日本でも、柴刈りは、おばさんや子供など、体力の劣る人でもできる仕事だったのです。男性と女性の社会的差異を「ジェンダー」といいます。お婆さんは、柴刈りにいってはおかしい---、というのはジェンダー不平等の考え方です。 |
牛追い |
Cowboy |
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昔話「桃太郎」冒頭で「おじいさんが山にシバ刈りに」いったのですが、おじさんは手に棒を持って、牛を追って、段々畑を上っています。山・里山に行くにはいくつかの目的があります。通勤は会社に行って働くため,通学は学校に行って授業を受ける(?)ため、と単一目的を表に出してもおかしくありません。しかし、山に行くのは、牛追い、柴刈り、野良仕事、水路管理、堆肥の採取、さらに奥地山村の家族・友人の訪問、杉の皮(屋根を葺く瓦代用品)の採取、キノコ採取、鳥撃ち、イノシシ狩など様々な目的があります。里山で、子守りをしているお婆さんや子供だっているのです。里山のようなローカルコモンズは多角的な利用が行われているのです。 (→段々畑)
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工芸品・民具 |
Handicrafts |
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中国の鎌は日本でも普及しているようです。おばさんたちの腰には曲がったカゴがあり、そこに鎌が入っています。芸術的な工芸品のような「鎌入れカゴ」です。鎌の先で、怪我をしないことと,出し入れが簡単にできること、軽くて邪魔にならないことが条件になります。 それでは、おばさんが肩にしている棒は何に使うのでしょうか。槍のように、先が尖っていて、中には金属の穂先がついているものもあります。こうなると、まさに槍のようです。(そのように誤解している、都会人もいるのです!)。おばさんは「シバ」刈りに行くのですが-----。 |
コモンズ |
The mountains |
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昔話「桃太郎」冒頭で「おじいさんが山にシバ刈りに、おばあさんが川に洗濯に行きました。---」とあります。 おばさんたちは、手に棒を持って、牛を追いながら、山の端につきました。声をかけながら、牛を山に追って行きます。 牧畜といえば、大草原というイメージで、世界の牧畜は把握できません。山村で個人の行う牧畜とは、資本不足、機械・飼育機材の未導入、飼料節約ですが、労力投入を惜しむことはありません。
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放牧 | Grazing |
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昔話「桃太郎」牛は、山の中で離すと、食べられる草や新芽の生えている灌木のある藪に入っていきます。放牧です 山口型放牧研究会でも、水田放牧などまさに途上国と似たような放牧を目指しています。
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地域コミュニティ |
Community
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昔話「桃太郎」冒頭で「おじいさんが山にシバ刈りに」いったのは、このような柴刈り山でしょう。柴を刈りことのできる山が、「柴刈り山」です。 日本でも
柴刈り山もみなおされつつあります。地域コミュニティのメンバーに使用が限定されている入会があります。柴刈りをするのが、柴刈り山で里山とも同じ意味で用いられます。
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里山 |
Momotarou |
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昔話「桃太郎」冒頭の「シバ」を、おばさんが集めているところは、山の傾斜地です。日本では、簡単に入り込める雑木林のイメージがありますが、貴州省山村では、藪に覆われた急傾斜地です。道もなく、滑り落ちるように、下の灌木のまばらな藪の中に入って,鎌で枝を落とします。
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「シバ」を集めるといっても、落ちている枝は少ないので,鎌で小枝を殺ぎ落として集めます。灌木の中に、柴を集めておいてから、再び上の山道に運びます。これが、伝統的なバイオマスエネルギーの利用方法です。
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財産権 |
Property |
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シバ刈り」が始まりました。小枝をナタで打って集めます。自由に木材を切ったり,薪を採取できたりする「自由な大地」は、もはや世界中ほとんどありません。地域コミュニティのメンバーが、一定の制約の下で利用できる入会はあります。この山村では、家族ごとに利用できる入会が決まっています。日本では、柴刈り代行サービスもやってます。これは、自己の財産権の及ぶ範囲での話です。実は,貴州省の山村でも、メンバーの財産権のある場所で柴刈りをしているのです。
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無償労働 |
Unpaid-work |
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昔話「桃太郎」冒頭の「シバ」を、おばさんが集めています。もちろん、薪を集めたお礼として、賃金を受けたり、現金を支払ったりする主人や雇用主はいません。ただ働きです。しかし、電気もガスも利用できない世帯にとって、バイオマスエネルギーは毎日の煮炊きに不可欠なのです。
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地産地消 |
Produntion & Consumption |
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籐は、日本では家具やカゴ作りの材料として有名です。フィリピン,ベトナム,インドネシアなどから輸入しています。しかし、おばさんが集め、柴の束を一まとめにするのにも、籐の仲間を使います。縛るヒモは、山に生えている細い枝やツタ、籐のような植物をヒモ代わりに使うのです。籐の魅力は、世界で様々です。
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燃料の確保 |
Momotarou |
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昔話「桃太郎」冒頭の「シバ」を、おばさんが集めているところは、山の傾斜地です。道もない藪の中に入って,鎌で枝を打ちます。傾斜地の作業では大変です。バラのような棘のあるある枝や、ススキのような鋭い葉も茂っています。日本では、バイオマス発電が注目されています。しかし、伝統的なバイオマスエネルギーの利用方法は、燃料として直接燃焼することで獲得されてきました。再生可能エネルギーを発電に限定する必要はありません。
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バイオマス・エネルギー |
Biomass Energy |
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昔話「桃太郎」冒頭の「シバ」とは、おばさんが集めた木の枝のことです。「バイオマスエネルイー」というと、近年になって利用されるようになった再生可能エネルギーであるように思う人もあるかもしれませんが、大きな誤解です。古くから世界中で利用されていた「ローテクの伝統的エネルギー」なのです。
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労働集約的な薪採取 |
Firewoods |
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昔話「桃太郎」冒頭の「シバ」を、おばさんが集めました。傾斜地の作業では、落ち着ける場所に集めた柴を運ばなくてなりません。棘のついた枝もあるので、みんな手袋,長袖で作業をします。付いていった私は,ささや棘で皮膚を切ったり、服を引っ掛けたりしてしまいました。伝統的なバイオマスエネルギーを獲得するには、労力がかかるということです。
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薪炭生産 |
Firewoods |
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昔話「桃太郎」冒頭の「シバ」を、おばさんが集めました。傾斜地の作業では、落ち着ける場所に集めた柴を運ばなくてなりません。広範に存在するバイオマスですが、それを集めるのに手間がかかります。労働集約的エネルギーといってもよいでしょう。
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非木材林産物;柴 |
Resources |
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「シバ」を山の上の身に地運び上げ、そこで束にします。枝を咲いて、柴を縛るためのヒモにします。 ところで,女子による柴刈りが、家事以上の範囲で、バイオマスエネルギーの取得、森林の利用という開発と環境の問題にかかわってきています。そこで、男子と女子との社会的な格差というジェンダーに注目した開発/環境政策も考慮すべきでしょう。 国際協力の分野では、開発途上国の女性の地位向上に着目した「開発と女性(WID)」、「ジェンダーと開発(GAD)」というアプローチが1980年代以降あります。WIDは、女子を家事・育児以外にも、生産活動における役割を重視するもので、従来の女子の生産活動が過小評価され、女子が開発プロジェクトから疎外されてきたとした。そこで、女子を単なる受益者として一方的に捉えるのではなく、人的資源として活用するために、開発に統合すべきであると考えました。 GADは、ジェンダー不平等の要因を、女性と男性の関係と社会構造の中で把握し、役割固定化と役割分担、ジェンダー格差を生み出す仕組みを変革しようとするアプローチです。GADは、ジェンダー不平等を解消するうえでの男性の役割に注目し、社会・経済的に不利な立場におかれた女子のエンパワーメントを促進する政策です。 |
運搬方法 |
Resources |
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「シバ」を担いだり,抱えたりして、山の上に運んできました。ここで、柴の束をまとめます。バイオマスの運搬には、古くから人力が使われていたのです。
昔話「桃太郎」の柴刈りは、木材切り出しというより、高齢のおじいさん,おばさんでも運搬できるような枝のことです。おばさんが鎌でかっているのが柴です。柴刈りに、金太郎の持っているような斧、マサカリは必要ありません。バイオマスエネルギーは、手作業で集めることが可能です。世界人口のうち15-20%くらいが薪に依存した調理をしています
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非木材林産物 |
Resources |
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昔話「桃太郎」冒頭の「シバ」を、おばさんが集め、山の上に運んできました。ここで、薪にする柴の束を一まとめにします。縛るヒモは、山に生えている細い枝やツタ、籐のような植物です。薪にする以外にも利用可能なバイオマスですが、燃焼することで材質をあまり問題にすることなく、有効利用が進みます。
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柴の人力運搬 |
Transportation |
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昔話「桃太郎」冒頭の「シバ」を、人力で運搬します。山道を下って30分から45分かけて自宅にまで運びます。分散したバイオマスエネルギーを収集し利用するには、労力が欠かせないということです。 |
バイオマスの運搬 |
Labor-intensive Technology |
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薪、藁のようなバイオマスは、燃料や飼料として有効利用できますが、広い範囲に分散しているために、収集する手間がかかります。運搬するにも労力が必要です。バイオマス直接利用には、手を汚し、汗をかく作業が必要なのです。日本のクリーンエネルギーとしてのバイオマスとは異なった利用方法です。しかし、直接利用は、便器やガスにするときのエネルギー転換損失が小さく、効率的利用となります。
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コモンズを利用した放牧 |
Labor-intensive Technology |
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放牧は、休耕地、畦道の草を束させながら行います。齢のおじいさん,おばさんでも牛追いをやっていて、老齢人口の雇用機会を提供しているのです。世界農業人口のうち30-40%くらいがコモンズに依存した放牧・家禽の飼育を行っているとみています。
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雲南省の放牧 |
Yunnann |
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山に幾重にも囲まれているが,渓谷にある盆地は,耕地化され,周辺の傾斜地は牧草地として利用される。
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牛の放牧が中心だが,馬,ロバ,ヤギ,水牛の放牧も行われる。夕方16:00過ぎになると,牛を連れて放牧に出て行った人たちが,次々と村に帰っていく。住民の多くはベー族で,ほかにもリス族,ナシ族など少数民族も隣接して居住している。
放牧では,道路脇や空き地,公有地の牧草を利用する。この牧草は,地域コミュニティの共有資源(コモンズ)として認識されている。 道脇の草を食べさせている。地域コミュニティの共有資源,すなわちコモンズに依存した農業と言える。
◆里山・入会地は、無償で利用はできるが、アクセスが、地域コミュニティのメンバーに限定されていたり、現地住民が相互利益に配慮しながら管理してたりしている。つまり、里山は、「ローカル・コモンズ」の一種である。現地住民は、地域コミュニティの他のメンバーの利益に配慮して、ローカル・コモンズを利用する。そこで、フリーライダー、モラルハザードが抑制され、「コモンズの悲劇」は生じにくい。 つまり、現地住民が利用する里山・入会は、自由にアクセスできる自由財ではなく、地域コミュニティのメンバーに限って利用できるローカル・コモンズであり、持続可能な利用がされてきた。
ローカルコモンズは、世界各地に古くから存在してきた。そして、地域コミュニティの現地住民による利用と管理の下にあった。このようなローカル・コモンズとして里山や入会地が維持できるのであれば、フリーライダー、モラルハザードに起因する里山の崩壊、すなわち「コモンズの悲劇」は、起こらないであろう。
里山は、薪というバイオマスエネルギーを提供しており、再生可能エネルギーの供給源でもある。バイオマスエネルギーというと、現在の日本では、バイオ発電、バイオ液体燃料など間接利用が注目されているが、歴史的には、里山からの薪採取という形で、住民に再生可能エネルギーを供給していた。これは、草の根民活として、地域コミュニティの住民が、自主的に里山を管理していたことを示すものである。
他方、日本の里山の再生が唱えられているが、NPOやボランティアのメンバーが、薪炭などを利用する現地住民でない場合、里山復活は困難な場合が多い。里山利用に伴う利益が、レジャーや自然観察に留まっているのであれば、 財政支援あるいは税制上の優遇措置が必要かもしれない。
以上のように、里山は、再生可能エネルギーの供給源として、利用され、保全されてきたのであり、持続可能な開発に大いに関連している。里山の議論を、自然と親しむとか、身近な緑を守るとか、狭い範囲に限定するのではなく、バイオマス利用の場として、世界に通用する視点で、持続可能な社会形成に役立てるべきであろう。 この意味で、日本に限らず、里山などローカルコモンズの利用と管理は、開発途上国の地域コミュニティに学ぶべき点が多いのである。
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