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◆「環境政策I」外部経済・公共財とフリーライダー



写真(上)2012年3月、フィリピン共和国ルソン島北部、コルディリェラ行政地方カリンガ州ウマ、タイガーグラスを竹ひごで縛って箒を作る家内工業(内職)が盛ん。標高1000メート。筆者撮影。

箒作りは、必ずしも力仕事ではないので、高齢者や児童も就労しており、労働集約的技術(labor-intensive industry)を用いる農村家内工業で、雇用吸収力は、少ない資本ではあっても高いといえる。 また、タイガーグラスを材料とした労働集約的技術(labor-intensive industry)を用いる農村家内工業では、化石燃料をほとんど消費せずに不可活を生み出している。


写真(右)2013年3月,フィリピン共和国ルソン島北部、コルディリェラ行政地方カリンガ州ウマ、イネ科多年草のタイガーグラスの刈入れ作業。この植物の繊維を使って、箒を製造する。標高800m。2013年3月撮影。筆者撮影。

コルディリェラ行政地方(Cordillera Administrative Region (CAR))のチコ川上流のイフガオ州は、世界遺産のバナウェ・ライステラスで有名である。その北東のカリンガ州の山村は、田植えが一段落した農閑期の3月、ホウキの材料となるイネ科多年草のタイガーグラス(Tiger Grass:Thysanolaena maxima)刈取り作業があり、その後、天日の乾燥される。これで天然材料のほうきを製造するのである。


写真(右)2013年3月,フィリピン共和国ルソン島北部、コルディリェラ行政地方カリンガ州ウマで、タイガーグラスを材料に箒を作る。標高1000メートル。2013年3月撮影。筆者撮影。

マニラ国家首都圏(NCR:National Capital Region)から陸路なら3日かかるコルディリェラ行政地方カリンガ州の山村では、同労集約的技術に依存した産業が住民たちの生業となっている。中心は棚田における稲作であるが、タイガーグラスを収穫しての箒づくりが、家内制工業あるいは内職として行われている。家庭用エネルギーの供給は、調理に使う木炭や廃材などバイオマスエネルギーが担っているが、電気の通っていない家も多く、手作業での箒づくりに、化石燃料消費は伴わない。


写真(右)2012年3月、フィリピン共和国ルソン島北部、カリンガ州に隣接する、カガヤンバレー地方(Cagayan Valley region)カガヤン州(Cagayan Province)州都ツゲガラオの市場。タイガーグラス製の箒が山積みされていた。筆者撮影。


貧困者は、節約、もったいないの意識が高い貧困者は、少ないエネルギー利用で調理を済ませたい。これがエネルギー利用効率の向上である。山村、農村では、バイオマス・エネルギーが利用がとても盛んである。これは、日本の農村とは大違いである。環境意識がなくては環境保全できないという人は、グローバルな視点で、節約の意味する「意図せざる環境保全」の重要性に気付くべきであろう。この点は、拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部、での指摘したグローバルでかつローカルな視点である。


Virtual Lecture Series鳥飼行博研究室やVirtual Classバーチャルクラス掲示もご覧ください。

5月下旬には、生協東海大学出版部などでテキスト(教科書)『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部の入手が可能です。「環境政策I/II」授業は、テキストを手元に置くことが前提ですが、教科書入手できていない履修者に配慮して、5月中は、講義部分だけ教科書をPDFで開示しました。6月以降の受講には、テキストが必須です。入手しないと講義は理解できません。

「環境政策I」講義コンテンツ

Environmental Cooperation




日中韓環境大臣会合始まる 大気汚染で意見交換(2015/04/30)

環境行政のリーダーシップの中で、持続可能な開発を率先して成熟社会の日本が進めるのは当然のように思える。これは日本の国際的地位を高めたり、国益を得たりすることが第一義的重視された結果ではない。世界のために公共的な、地球的な目標を追求した結果である。このように言い切れるかどうか、考えてみたい。

大臣の立場になって考えると、リーダーとして環境保全を進めようとすれば、そのための資金、人材、技術の負担が大きくなり、世界的には、グローバルには持続可能な開発が進んでも、日本は損することになる。世界の人のために努力しても、見返りがなければ、する価値はない。うまく立ち回って、EUなど他の先進工業国に環境保全の負担をさせて、我々は負担を最小化し、森林保全、温暖化防止など環境保全の利益をうまく搾取すればよい。このようなフリーライダーの問題が、持続可能な開発を進め際に浮上してくるのである。

鳥飼行博研究室の左バナー・ボタン研究業績の中ほど「紀要論文」に示した拙著(2018)「バイオマスエネルギーの人間開発論 : フィリピンを事例としたローカルコモンズの意義」Biomass Energy in Human Economies『東海大学紀要. 教養学部』Journal of the School of Humanities and Culture, Tokai University第 48輯を刊行する20年以上前、テキスト『開発と環境の経済学−人間開発論の視点から』を執筆していた20世紀末、日本では豊かさは、精神的な豊かさ、心の豊かさの重要性が指摘されて久しく、従来までの、物質的豊かさ、物の豊かさを追求する生き方に疑問が投げかけられていた。1960年代に国民所得倍増計画が成り、1970年代には、大きいことはいいことだとばかりに、大建設ブームによる日本列島改造が唱えられてきたが、その後、豊かさの精神的な心の豊かさが指摘されるようになった。そして、日本では、1980年代からは久しく物質的豊かさより精神的豊かさが、物より心が大切に思われてきたのである。

1992年に開催された人類史上最大の会議「地球サミット」では、持続可能な開発が話題になったが、この時以来、世界中で「地球にやさしい」ことが大切だとの認識が広まった。他方、日本のような成熟社会にある先進工業国は、「中国、インド、フィリピンのようの開発途上国は、環境意識が低いので、ごみのポイ捨てを平気でしている、森林保全に無関心で、樹木をどんどん伐採し、薪をとりつくして森林を大規模に破壊している」「貧困こそが、環境意識の低さゆえに、地球環境を悪化させている」といった開発途上国(途上社会)環境脅威論が蔓延した。その後の京都議定書にも途上国は加わっていないと(誤解)して、アメリカは、温暖化への取り組みに加わらないと嘯いた。EUは率先して気候変動や森林破壊の問題に取り組むとして、環境政策のリーダーシップを握った。日本はどうしたか。日本の市民は、どう考えているのか。


日中韓 福岡で環境大臣会合(2019/11/23 公開)
「小泉環境大臣は大気汚染など地球規模の環境問題について中国・韓国の環境相と話し合う日中韓3カ国環境大臣会合に出席するため、福岡県北九州市を訪問しています。24日に開かれる日中韓3カ国の環境大臣による会合を前に、小泉大臣は韓国の趙明來(チョ・ミョンレ)環境部長官と個別に会談した後、現在中国の李幹傑(リ・カンケツ)生態環境部長と会談しています。小泉大臣は環境分野における日本の取り組みを説明し、両国との間の懸案事項について緊密な協力を呼びかけることにしています。」テレ東NEWS
4,440 回視聴でいい35、だめ199だった。「何の価値も、意味も無い協議やね❗馬の耳に念仏じぁ」「環境のことなんか二の次にしか考えていない中国と韓国と話をして日本が得するどころか、また血税をたかられたり、何億も掛けた技術開発のノウハウをパクられるだけだろ、もう関わるなよ」「中国と韓国だけでやって!!」「協力するって、日本は全部資金持ったり、先端技術を簡単に与えないでください。日本人の技術者を拉致されないようにもお願いします!」「グレタと変わらんなぁ〜小泉w」「中国に環境のことなんて分かるわけないでしょ」「環境をやればやるほど、日本は貧乏になります。 本当に日本の環境が悪いのか?ってよく考えたいです。私の意見は環境より貧困に苦しむ人多くないかと」
成熟社会にある人の下品なコメントは例外的であろうが、開発途上国環境脅威論に与していて、自分の負担はせずに文句だけつけているようで、うまく立ち回って受益者になろうとするフリーライダーに見えてくる。

豊かさは、今までは、物質的豊かさ、物の豊かさを意味してきたが、現在の日本では、精神的な豊かさ、心の豊かさの重要性が指摘されている。これは、豊かさには、物と心の二面があるということで、日本では、久しく物質的豊かさより、精神的豊かさが、物より心が大切に思われてきた。1960年代から50年以上も長年に渡って実施されてきた「世論調査」から、成熟社会の特徴を整理し、しばらく前に成熟社会に達した日本では、なぜ「持続可能な開発」が重視されるようになったのかを考えたい。そして、物質的に豊かになって成熟社会にある日本が、グローバルな視点で、世界の持続可能の開発のために、どれだけ負担できるのか、負担する覚悟があるのか、を見直してみたい。

2020年現在の世界では、貧困者の残る途上社会も含めて、SDGsのような社会的目標が受け入れられるようになった。つまり、途上社会にあった諸国でも、物質的豊かさだけではなく、精神的な豊かさが重視され、経済成長だけではなく、環境保全も大切だと多く考えるように認識が変化したと思われる。この理由を考察してほしい。豊かさは、今までは、物質的豊かさ、物の豊かさを意味してきたが、現在の世界では、日本と同じように、精神的な豊かさ、心の豊かさの重要性が指摘されている。これは、豊かさには、物と心の二面があれば、物質的豊かさより、精神的豊かさが、持続可能な開発にふさわしいとされたのであろう。つまり、途上社会にあった諸国でも、ベーシックヒューマンニーズが充足されつつあり、成熟社会化が始まっており、物質的豊かさだけではなく、精神的な豊かさが重視され始めた。そこで、経済成長だけではなく、環境保全も大切だと多く考えるように世界の認識が大きく変化してきたと思われる。
 
 しかし、地球市民となった我々は、持続可能な開発のために、どれだけ努力し、負担するつもりなのか。それだけの能力、資金力、技術力があるのか。誰でも地球環境を守ってほしいと思うが、そのためにどれだけの負担をする覚悟があるのか。一番楽なのは、自分は持続可能な開発のためには何の負担もせず、誰かにやらせておいて、その利益を享受すること、すなわち利己的なフリーライダーになることである。

林野庁『平成30年度森林・林業白書』でも、森林とそれにかかわる行政を担う官庁の考え方は、「みんなのための森」という認識を示している。

「将来にわたって森林が有する様々な機能を発揮していくためには、「伐(き)って、使って、植える」という形での循環利用をしていかなくてはならない。そのためには、林業の成長産業化の実現や森林の適切な整備・保全が極めて重要である」「日本には2505万haの森林があるが、その約4割に相当する1020万haは「人工林」だ。これらの人工林は、戦中に荒廃した森林の復旧造林、戦後復興や高度経済成長期を支える木材を供給するための拡大造林、その後の下刈り、間伐などの保育…と先人達による膨大な人手と時間をかけて造成されてきた。現在、その半数が一般的な主伐期である50年生を超える。すなわち本格的な利用期を迎え、森林資源はかつてないほどに充実しているといえる」といのは、1960年代から言い続けられてきた森林の経済的意味をあらわすもので、森林は木材の供給源となり、地域の林業関連産業を支えてきたというものである。これは、地域経済の活性化、すなわち地域生産・所得・消費の維持と拡大につながる。つまり、市場経済で貨幣換算可能な経済的価値である。

他方、林業白書は、森林を貨幣換算可能な経済的価値だけで評価すべきとしているのではない。
「我が国の森林は、地球温暖化防止や生物多様性の保全など、様々な働きを通じて国民生活の安定や経済の発展に寄与している。例えば、樹木の根は土砂や岩石などをおさえ、崩れるのを防いでおり、森林によって育まれた土壌は水質の浄化などに役立っている。これは「森林の有する多面的機能」といわれており、学者たちによって一部の機能については貨幣での価値が示されている」というのは、林業と地球環境を関連付けるもので、持続可能な開発の認識の現れている個所である。

ここから、森林がもつ多面的機能として、
1)土砂崩れや土石流を抑制する災害防止の機能、
2)森林の育む地下水供給の機能、
3)木質バイオマスを提供する再生可能エネルギーの供給源としての機能、
4)温室効果ガスの二酸化炭素を吸収する炭素貯蔵機能、
などを指摘できる。つまり、森林には多面的機能があって、地球環境に大きなプラスの意味を持っているということができる。

しかし、林野庁が指摘していないのは、このような森林の多面的機能は、市場で評価されることがない外部経済であるということである。そして、森林のもたらす恵は、特定の消費者や企業に帰属するというよりも、地域の住民、地球市民に共通にいきわたる公共財であるということである。この森林の恵には、商品価格がついておらず、対価として支払いをせずに享受できるのであり、自由財としての意味もある。つまり、森林の多面的機能は、市場で評価されずに、無償で提供されており、森林の所有者・管理者は、それ相応の対価をもらえないでいるということになる。

このような森林が持つ外部経済、公共財の特徴は、実はグローバルな視点で世界のグリーン経済をどのように理解するかのヒントになる。森林には、木質バイオマスの供給、生物多様性の保全、気候変動防止となる炭素貯蔵機能など多面的機能があるが、持続可能な開発を考えるに際しても、このどれをどのように評価するか、評価しないままで「ただ乗り」をしてよいのかというフリーライダーの視点が重要になろう。

鳥飼行博研究室の左バナー・ボタン公開論文の中ほど単著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版会 「第一章 開発とはな何か」(pdf)ダウンロード、熟読し、持続可能な開発を実行しようとする場合の困難さを、外部経済、公共財の視点から見直してもらいたい。

「環境政策I」課題サンプル

Report writing

<レポート課題サンプル>

講義コンテンツと鳥飼行博研究室研究業績にあげたテキスト『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』「第1章 開発とはなにか」を参考に、20世紀後半の南北格差から持続可能な開発の登場まで、物の豊かさと心の豊かさ、主観的豊かさと客観的豊かさ、途上社会と成熟社会を対比しながら、「開発途上国環境脅威論」を批判的に検討しなさい。 その際、鳥飼研左バナーボタンのアジア写真集
(左段)中国 貴州省の持続可能な農業 Sustainable Agriculture
(右段)中国 四川省丹巴県の堆肥作り Farmer & Composting
(右段)フィリピン ごみ山跡地の農業 SmokeyMountain2016
の3本の写真のバイオマス利用、化石燃料を使用しない労働集約的技術のディテールも引用し、開発途上国の貧困とその生活の質(QOL)の視点から、「開発途上国環境脅威論」誤解・誤りに言及すること。

そして、この講義コンテンツと鳥飼行博研究室の左側にある研究業績にあげたテキスト『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』「第1章 開発とはなにか」を引用しながら、「外部経済」「公共財」「フリーライダー」に注目して、真の豊かさを求める成熟社会にあっても、世界のために持続可能な開発を進めることが、先進工業国の成熟社会にあっても困難であるの理由を、経済学的に説明しなさい。

1)課題レポートをワード(Word)で作成、添付ファイルとしてmanabaレポート提出機能で送信。
2)文字数は、1000文字以上30000文字以下、他サイトの引用は不可。
3)課題レポート本文に,ふさわしい題名,学番,学生氏名を明記。

東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程

TorikaiLab, Tokai University

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