Search the TORIKAI LAB Network

GoogleInSite

◆「環境政策I」地域コミュニティのコモンズ管理:鳥飼行博研究室

太古から世界で利用されてきた薪、木炭は、再生可能エネルギーであり、人類は有史以来、森林を使ってバイオマスエネルギーを入手して生きてきた。火を使用し、土器を焼き、金属を製錬できるようになったのも、バイオマスエネルギーのお陰であり、人類の歴史の大半は、薪や炭にエネルギーを依拠したバイオマス文明であるといってよい。つまり、人類史を見れば、木質バイオマスの利用が世界中に広まっていたのであり、再生可能エネルギーは伝統的エネルギーであって、「新エネルギー」であるというのは、完全な誤解である。昔話桃太郎冒頭を「お爺さんは山に芝刈りに」と誤解している人であれば、現代ですら、世界の再生可能エネルギーの過半は、開発途上国の貧困者が日々の調理に利用している薪や木炭の直接燃焼による熱エネルギーであるとは思い至らないであろう。グリーン経済は、最新のテクノロジー、「新エネルギー」によって支えられていると考えても無理はない。

写真(右):2006年3月,中国南部、貴州省黎平県、山村から山道を住民たちが牛を追って登って、里山に着いた。あたりを見回して、薪採取がしやすいところを探している。これは、アクセスしやすいというより、薪が十分にとれる場所という意味である。樹木は時間がかかるが、再生することを知っている。再生可能な範囲で木質バイオマスを集めるのである。筆者撮影。

中華人民共和国貴州省は、面積18万平方キロと日本の半分の大きさを誇るが、2010年人口は4000万人、省内生産(GDP)は4550億元(中国全土26位)、1人当たりGDPは1万2000元と全国最下位の31位である。雲南省は山岳地とはいっても、に鉱業・観光業も栄えているが、貴州省は農業が主流である。

写真(右):2006年3月,中国南部、貴州省黎平県、里山における薪採取。ナタで小枝を切り、同じ長さにそろえる。このような細い枝を粗朶という。山村では、薪を用いて熱エネルギーを起こし、それによって調理をしている。調理に熱エネルギーが利用できなければ、人々の生活はどうなるだろう。筆者撮影。

「シバ」を集めるといっても、落ちている枝は少ないので,鎌で小枝を殺ぎ落として集めている。灌木の中に、柴を集めておいてから、再び上の山道に運び、束ねて人力で運ぶ。これが、伝統的エネルギー(バイオマスエネルギー)の利用方法である。

開発途上国の山村居住者、農民は、教育水準が低い、未熟練だと悪く言われるたり、社会的弱者と見下されて援助対象者のように扱われたりする。彼らが、バイオマスを重要なエネルギーとして、再生可能エネルギーで生活の大半のエネルギーを賄っていることは忘れられている。「商業的エネルギー」という認識があれば、電気・ガスをエネルギーとして利用するには、支払いが必要だと思い当たるが、木質バイオマスなら、里山で採取した薪・粗朶ならただである。

薪、藁のようなバイオマスは、燃料や飼料として有効利用できるが、広い範囲に分散しているために、収集する手間と時間がかかる。運搬するにも労力が必要である。バイオマス直接利用には、手を汚し、汗をかく作業が必要で、「クリーン」ではない。使用すれば、灰や燃えカスが残り、真黒な煤が付着する。固形バイオマス直接燃焼は「グリーン経済」の一翼を担っているが、実は利用時に汚れを気にしなくてはならず、真の意味での「クリーン・エネルギー」ではない。しかし、直接熱エネルギーを利用することで、電気エネルギーに変換・送電するときの損失がなく、効率的に利用することが可能である。



写真(右)2006年3月,中国南部、貴州省黎平県、山村からさらに里山に分け入って、薪を採取し、それを束ねて家路を帰る。「シバ」を、人力で運搬し、山道を下って30分から45分かけて自宅にまで運ぶ。分散したバイオマスエネルギーを収集し利用するには、労力が欠かせないのであって、現在の日本の「里山」では運搬には、自動車を使うしかないであろう。山道を下るが、担いでいる薪(粗朶)は重いので、下り道だからといって楽なわけではない。山林から棚田を通り、集落に向かう。筆者撮影。

  重労働であるにも関わらず薪を運搬し再生可能エネルギーを利用しているのは、薪がただである、すなわち無料エネルギーであるからだが、このことは、エネルギーの地産地消であり、食料の地産地消が有償であるのとは異なっている。その違いを比較すると面白い。

貧困者は、節約、もったいないの意識が高い貧困者は、少ないエネルギー利用で調理を済ませたい。これがエネルギー利用効率の向上である。山村、農村では、バイオマス・エネルギーが利用がとても盛んである。これは、日本の農村とは大違いである。環境意識がなくては環境保全できないという人は、グローバルな視点で、節約の意味する「意図せざる環境保全」の重要性に気付くべきであろう。この点は、拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部、での指摘したグローバルでかつローカルな視点である。


Virtual Lecture Series鳥飼行博研究室写真館やVirtual Classバーチャルクラス掲示もご覧ください。

「環境政策I」講義コンテンツ

Vertual Lecture



ローカルコモンズとはなにか:森林管理を再考する
インターネット検索の筆頭ともいえるwikepediaは、個人で作成できるが、公開討論で修正も加えられており、便利帳として有用である。大学生でも作成者でなく、利用者となることが多い。この無料着火によって、「コモンズ」の開設を見ると、2020年5月15日現在、以下のようであり、わかりしくい項目となっている。引用を「」で示し、その後に⇒コメントを加えてみた。

「コモンズ(Commons)は、日本語でいう入会(いりあい)の英訳。ドイツ語では Allmende。ただし、日本の入会地は、ほとんどが入会団体などの特定集団によって所有・管理されているため、誰の所有にも属さない放牧地(草原を広範囲に移動する遊牧民でも自由に利用できる放牧地)などを意味する「コモンズ」とはニュアンスが異なる。 」
誰の所有にも属さない土地がコモンズではないだろう。古代に人類が進出していない土地や島々は、誰も所有でもなかったが、そこに進出してきた人が占有した。コモンズは、特定人の個人が占有している私有地ではないが、共同所有・共同利用がなされている点に特徴がある。

「日本国の法制度における入会の取り扱いは入会権を参照。 前近代の遺制であるが、法制度上も実際にも存続している。入会権が民事調停によって消滅すること、財産処分に関する代表者が土地を売却したときは入会権は消滅し、売却代金を横領した代表者に対する損害賠償請求ができるにとどまることを示した実例として、「小繋事件」がある。また、地元の「岩手入会・コモンズの会」(会長:岩手大学前学長海妻矩彦)などにより研究が進められている。」
「コモンズについては古くから研究の蓄積があるが、近年、早稲田大学COEプログラムで研究がなされている(コモンズ・所有・新しい社会システムの可能性 : 小繋事件が問いかけるもの)。また、NPOメディア・ネットワークは、コモンズを「コミュニティ・コモン」(コモンズの単数形)と表現し、21世紀型の“ムラ社会”を提案している。同様の試みとして、他に萬羽敏郎「21世紀の入会地(いりあいち)=コモンズによる郊外再生」(2001年日本委員会編『人口減少社会』)がある。」
入会地とコモンズは同列において議論できるが、コモンズには、土地だけでなく、森林、河川、地下水、海洋、大気など環境的なもの、自然共有資源が含まれる。範囲を広く、掘り下げて書くのも大変であろうが、ウィキペディアのこの説明は短すぎて研究成果・著作の掲載で終わってしまっている。

この後の説明は「入会(いりあい)という意味で使用されている例」「その他の例」があるが、羅列だけで内容は不明瞭なままである。この「コモンズ」の説明では、残念ながら百科事典としては使えない。


What is the tragedy of the commons? - Nicholas Amendolare (2017/11/21 公開)
Is it possible that overfishing, super germs, and global warming are all caused by the same thing? In 1968, a man named Garrett Hardin sat down to write an essay about overpopulation. Within it, he discovered a pattern of human behavior that explains some of history’s biggest problems. Nicholas Amendolare describes the tragedy of the commons. Lesson by Nicholas Amendolare, directed by TED-Ed.


Tragedy of the Commons │ The Problem with Open Access(2015/06/09 公開)
The semantics of the model I'm working from use common goods/common property/ common pool resources (resources used by multiple people) and common property regimes (the institutions or social arrangements between people, the property rights regarding common pool resources).
We were taught that "the commons" is sort of an old term. It has issues because it blankets both common pool resources with no communication, no rules, no accountability, no punishment for those who break the rules, etc. (open access) and common pool resources with some cooperation or institution in place (common property regimes).
When you get away from those aspects that allow people to trust one another and work together, the system looks like an open access system. The tragedy of the commons model describes what happens in that open access system. But not what happens when a common property regime is in place. But the term "commons" doesn't distinguish between the two.


コモンズの悲劇は、オープンアクセスと収奪的な利用にあるが、地域コミュニティでは、地域住民に自然共有資源の利用の権利があり、誰もが勝手に使用することはも認めれないのである。先進工業国・成熟社会の学生から識者・政治家まで、地域コミュニティの住民の連携や信頼関係を見落としているので「コモンズの悲劇」の事例を開発途上国の森林・河川・泉などあてはめてしまっている。この点は、インターネットwikepedia「ローカル・コモンズ」で、2020年5月15日現在、次のように説明がなされている。

ローカル・コモンズとは、コモンズの一種である。地域コミュニティの集団が実質的に所有し、共同事業として現地住民が相互利益に配慮しながら管理したりしているため、無償利用は可能でも、アクセスが、地域コミュニティのメンバーに限定されていたりする。このようなコモンズを「ローカル・コモンズ」と呼称する。

「コモンズの悲劇」とローカル・コモンズ
コモンズでは、生物学者ギャレット・ハーディンの指摘した「コモンズの悲劇」が問題にされる。
森林破壊を例に挙げれば、開発途上国では、貧困層を中心とした森林の保護の概念もない無秩序な薪の乱獲や炭の生産が森林破壊の元凶とされるが、これはコモンズの性質を無視した誤解であるとする。多くの場合、薪の採取や炭の生産には、これを利用する共同体の構成員によるルールが存在している。

現実に、入会地、共有地、里山、森林、漁場、河川・水路、沿岸水産資源などにおいても、共同体が運営する共同事業として実質的に所有及び管理しており、利用に金銭的な無償性はあっても代償としての奉仕があったり、共同体のメンバーとして参加するにも厳格な排他性が存在したりしている。共同事業、共同財産へのアクセスは、必ずしもオープン・アクセスではない。先の森林破壊の例は、共同体による排他性が十分機能していない、管理統制が崩壊した例とされる。

こうしたコモンズは、隣接しあう別のコモンズとの衝突を避けるためのルールも存在し、内部統制と外部管理が維持される限り「コモンズの悲劇」は生じない。こうした個々のコモンズをローカル・コモンズという。ローカル・コモンズは、農村、漁村、山村などの確実に統制が及ぶ範囲の集団を単位として成立し、これがよく機能して永続している伝統社会や地域コミュニティには、クラブ財としてコモンズが存在する。コモンズの収奪的利用は抑制されており、ローカル・コモンズは、地域コミュニティの他のメンバーの利益に配慮しながら利用され、フリーライダー、モラルハザードが抑制される。

ローカル・コモンズに関する研究
このようなローカル・コモンズの存在は、農林水産業、労働、所得・収穫、生活、薪炭採取などに関するフィールドワークから明らかになっている。
公共財および共有資源(CPR、Common-pool resource)についての研究では、フィールド環境とゲーム理論を用いた実験環境の双方において、コミュニティがコモンズを効率的に管理できることが明らかにされている。

ローカル・コモンズの現状と今後の展望
ローカル・コモンズは、特に開発途上国にあっては、重要な共有資源である。薪炭や非木材生産物をもたらす森林、河川・水路、道路脇や公有地の牧草、沿岸の水産資源などは、現地住民にとって、バイオマスエネルギー、農業投入財、食糧などを供給してくれる存在である。ローカル・コモンズは、現地住民には生活にはなくてはならない存在となっている。

そこで、ローカル・コモンズの今後の利用・保全を図るためには、個人経営体(農家、自営業者など)など現地住民(女子、老人を含む)の参加が必要不可欠になってくるであろう。
持続可能な開発な社会を形成するためには、貿易、直接投資、政府開発援助,NGO・NPOだけではなく、地域コミュニティにおけるローカル・コモンズの適正管理にも着目して環境を保全することが考えられる。

このように、ローカル・コモンズの管理に着目すると、開発と環境保全の担い手として、開発途上国あるいは先進工業国の現地住民を草の根民活として位置づけることができる。そして、地域コミュニティにおいて、草の根民活の参加を促すことが、持続可能な開発にとって有効であると考えられる。 (インターネットwikepedia「ローカル・コモンズ」引用終わり)

インターネットwikepedia「ローカル・コモンズ」は、参考文献にあるように、
鳥飼行博著『社会開発と環境保全−開発途上国の地域コミュニティを対象とした人間環境論』(東海大学出版会、2002年、ISBN 4486015851)
同『地域コミュニティの環境経済学−開発途上国の草の根民活論と持続可能な開発』(多賀出版、2007年、ISBN 9784811571317)
をもとに作成されている。
引用された写真は、鳥飼行博研究室が提供したもので、wikipedia日本のほかに、wikipediaノルウェー「Brandhout」(薪)やwikipedia英語「Herders」(牧畜民)にも掲載されている。著作や鳥飼研究室を利用してwikepediaに学術的見解が追加されている。

以上の講義を踏まえて、鳥飼行博研究室の左バナー・ボタン研究業績の中ほど「紀要論文」にリンクがある下記指定の
鳥飼行博(2018)「バイオマスエネルギーの人間開発論 : フィリピンを事例としたローカルコモンズの意義」Biomass Energy in Human Economies『東海大学紀要. 教養学部』Journal of the School of Humanities and Culture, Tokai University 第 48輯, pp.171-231, 2018-03-30( [本文を見る]でダウンロード)
特に、コモンズ管理の個所を再読しなさい。 

「環境政策I」レポート課題

Report writing


5月中旬以降、生協、紀伊国屋、東海大学出版会などでテキスト入手可能になりました。「環境政策I/II」授業には、教科書『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部を手元に置いてください。受講にテキスト必須です。入手しないと講義は理解できません。

<まとめレポート課題サンプル>
正規のレポートはmanabaのレポートに開示。

講義コンテンツと鳥飼研究室の左側研究業績の中ほど「紀要論文」
鳥飼行博(2018)「バイオマスエネルギーの人間開発論 : フィリピンを事例としたローカルコモンズの意義」Biomass Energy in Human Economies『東海大学紀要. 教養学部』Journal of the School of Humanities and Culture, Tokai University第 48輯, pp.171-231, 2018-03-30( [本文を見る]でダウンロード)
を熟読しなさい。そして、「コモンズの悲劇」を批判的に検討し、ローカルコモンズの利用と管理の方法を具体的に説明しなさい。
その際、鳥飼研究室左側バナーアジア写真集所蔵の
右段、中国「貴州省の持続可能な農業 Sustainable Agriculture」
右段、中国「ローカルコモンズの牧畜 Local Commons in Yunnnan」
中段、タイのコモンズ:牛・水牛の牧畜 Commons & Pastoralism
の3本に収録した写真のディテールも引用すること。このフィールド調査を引用しないレポートは具体的記述にはなりません。

1)レポートは、ワード作成、添付ファイルでmanabaレポート提出機能で送信。PDF、写真などに変換したもの採点整理できませんのでWord文書を提出してください。
2)文字数は、1000文字以上2400文字以下。他サイトの引用は不可。
3)レポート本文には,ふさわしい題名,学番,学生氏名を明記。
4)レポート提出題名の欄(件名)には「commons」に続け学番、学生氏名を明記。
  例「commons 12B1300036C 佐藤太郎」

東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程

TorikaiLab, Tokai University

大学での講義「環境政策I/II」「開発経済学」「環境協力論」は、持続可能な開発を、開発途上国、地域コミュニティの視点も含めて、分析する授業です。俗説とは異なる議論も展開しています。

当研究室へのご訪問ありがとうございます。論文,データ,写真等を引用する際は,URLなど出所を記載してください。ご意見,ご質問をお寄せ下さる時には,ご氏名,ご所属,ご連絡先を明記してくださいますようお願い申し上げます。 連絡先: torikai@tokai-u.jp
〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1 
東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程
鳥飼 行博 TORIKAI Yukihiro
HK,Toka University,4-1-1 Kitakaname,Hiratuka
Kanagawa,Japan259-1292
東海大への行き方|How to go
Flag Counter

Thank you for visiting my web site. The online information includes research papers, over 8000 photos and posters published by government agencies and other organizations. The users, who transcribed thses materials from TORIKAI LAB, are requested to credit the owning instutution or to cite the URL of this site. This project is being carried out entirely by Torikai Yukihiro, who is web archive maintainer.
Copyright © 2020/5/07 Torikai Yukihiro All Rights Reserved.