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◆汎アジア循環型社会形成の可能性


写真(上)2014年8月,フィリピン共和国ルソン島中部、マニラ首都圏ケソン市のジャンクショップ
:スカベンジャーが集めてきた有価物になるプラスチック、PET,段ボール、金属などに分類してジャンクショップ(屑屋)に買い取っている。筆者撮影。


写真(右)2014年8月、マニラ首都圏ケソン市パヤタス最終処分場のごみ山
パヤタス廃棄物最終処分場へは、立ち入りできないので、ゲートの隙間から覗くことしかできない。フィリピンの恥部として、外国メディアが揶揄して取り上げたことから、フィリピン政府は、以前から、メディアや外国人の廃棄物処分場への立ち入りを厳しく制限している。

マニラ首都圏ケソン市のバランガイ・パヤタスに設けられたダンピング・サイト(ごみ最終処分場:ゴミ捨て場)の広さは、数キロ四方、40ヘクタールといわれるほど広く、半日で100台以上のごみ収集トラックが、マニラ首都圏のごみを運んでくる。開設は1970年代からだが、実際に大量のごみが運ばれてきたのは、1990年以降である。

ごみ下
写真(右)2014年8月、マニラ首都圏ケソン市パヤタス最終処分場のごみ山
:立ち入りできないが、ゲートの隙間から覗くとごみ山がまじかに見える。2015年には、この廃棄物処分場の壁いっぱいにまで、ごみが堆積していた。

20世紀末から2002年ごろまでは、ごみ山の周囲に柵は設けられておらず、侵入するのはごみ山を登ればよかった。ここで腐ったごみから発生するメタンガスを利用したバイオガス発電があるが、これをクリーン開発メカニズム(CDM)として注目するよりも、スカベンジャーとジャンクショップの連携したマテリアル・リサイクルに注目すべきであろう。

男ジャンクショップ1
写真(右)2014年8月、マニラ首都圏ケソン市パヤタス最終処分場に隣接したジャンクショップ(屑屋)
:スカベンジャーのもってきた有価物を書類別に計量して、有価物として買い取るのがジャンクショップである。スカベンジャーは、ゴミを拾い、再利用出来るものを有価物として、ジャンクショップに売って生活している。スカベンジャーの集めているのは、プラスチック・空き缶など金属類・ガラスビン・段ボール・紙・廃材・家具・家電製品・使い捨て食器・コンデンサー・バッテリーなど。

マニラ首都圏ケソン市パヤタス廃棄物最終処分場の周囲には、たくさんのバラック住宅が密集している。住民のお宅にお邪魔してお話を伺った。正規の住宅賃借権ではないが、土地の持ち主に地代を支払ってバラック住宅に住んでいる。インフォーマルセットラー(不正規居住者)・スラム住民といっても、只で住まわせてもらっているとは限らない。



じゃんく2
写真(右)2015年8月、マニラ首都圏ケソン市パヤタス最終処分場から有価物を集めてきたスカベンジャー。
パヤタススラムにあるジャンクショップ(屑屋)に分別した有価物を売却に持っていく。ごみから有価物を分別収集したスカベンジャーは、ジャンクショップに持ち込んで、有価物として買い取ってもらうのである。

マニラ首都圏ケソン市パヤタス最終処分場、マニラ首都圏トンド地区の河川の周りには、水上家屋も含めバラック住宅が密集している。そこでは、各家庭に水道は敷設されていない。

この井戸水は、洗濯や食器洗いに使用するが、飲料はできない。日本では、食器や手洗いだけでなく、洗車するのにも、水洗トイレでも、飲料可能な水道水を大量に消費する。

スカベンジャー9
写真(右)2014年8月、マニラ首都圏ケソン市パヤタス最終処分場から有価物を集めてきたスカベンジャー。:ゴミ収集車の中から、有価物になるプラスチック、PET,段ボール、金属などに分類している。分別した後で、近くのジャンクショップ(屑屋)に販売するのである。

マニラ国家首都圏(NCR:National Capital Region)のケソン市パヤタスやマニラ市トンド地区にある大規模なスラム街を訪問し、スカベンジャー(ゴミ拾い)世帯に聞き取り調査を行った。ここはバラック住宅が密集し、インファーマルセトラー(不正規居住者)が多数居住している。捨てられたトタン、ベニヤ、ビニールシート、釘、針金、ベットのスプリング、柵、鉄格子など廃材を材料として、バラックを建てて住んでいる最貧困層である。

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写真(右)2014年8月、マニラ首都圏ケソン市パヤタス最終処分場から有価物を集めてきたスカベンジャーたち。
:ジャンクショップ(屑屋)に有価物を売りに行く前に、ごみから収集した有価物をスカベンジャーが分別している。

2000年7月10日、パヤタス廃棄物最終処分のごみ山崩壊の人身事故が発生した。大雨のが降り続き、ごみ山が高さ30メートル、幅100メートル に渡り崩落し、数ヘクタールが被害を受けた。そして、付近に建てられていたスラムのバラックが400軒(住民2000人近く)が被害を受け、死者234名、身元不明者数十名の人身事故となった。この事故は世界中に報道されたために、事故後に復旧が進み、政府高官が出席する慰霊祭を行うために、アクセス道路、周囲の住宅のコンクリートブロックによる再建が図られた。慰霊祭会場には、広場と屋根が掛けられ、記念碑が設けられている。

スカベンジャー9
写真(右)2014年8月、マニラ首都圏ケソン市パヤタス最終処分場から有価物を集めてきたスカベンジャー。
:有価物になるプラスチック、PET,段ボール、金属などに分類してジャンクショップ(屑屋)に販売している。ジャンクショップは、有価物を種類別に計量して、重量当たり単価を斟酌して、スカベンジャーに現金を支払う。

フィリピン政府は、2000年7月10日、パヤタス廃棄物最終処分のごみ山崩壊の被災者のために、10 キロ離れたリサール州モンタルバン市カシグラハンを移住先とした。しかし、住居は整っても、スカベンジャーだった住民には雇用機会がない。そこで、カシグラハン移住は、貧困者にとって、決して生活保障とはならなかった。

スカベンジャー9写真(右)2014年8月、マニラ首都圏ケソン市パヤタス最終処分場から有価物を集めてきたスカベンジャーから有価物を買い取るジャンクショップ(屑屋)。:有価物になるプラスチック、PET,段ボール、金属などに分類してジャンクショップ(屑屋)に販売する。

聞き取り調査の基本は、コミュニケ―ションで、双方向の情報のやり取りである。質問者の気持ちや考えをわかってもらう、どんな人物で、なぜこんなところに来ているのか。相手に、一番わかりやすいのは、質問者の抱いている好奇心である。この一日、午前から午後まで、歩き回っていれば、住民が挨拶してくれる、話しかけてくる。自己紹介して、何しに来たかのチャットが、フィールド調査の始まりである。


写真(右)2014年8月,フィリピン共和国ルソン島中部、マニラ首都圏マニラ市トンド地区のスラムと水上家屋。:家屋は、トタン、木材、ビニールシート、ベットのスプリングなどでできている。マニラ市パヤタスのスカベンジャー(ゴミ拾い)世帯は、プラスチック、金属、段ボール、ガラスなどリサイクル可能な有価物を収集し、それを売却して生活している。その家庭用エネルギーの供給は、調理に使う木炭や廃材などバイオマスエネルギーが担っている。 筆者撮影。

フィリピン共和国ルソン島中部、マニラ首都圏マニラ市トンドのバランガイキャプテン(Barangay Captain)にも鳥飼ゼミナールは聞き取りを行った。ここに来る外国人もいないが、住民もやってきた日本人に親切に応対してくれる。このような地区では、井戸はあっても水は汚染されており、飲料水とはならない。しかし、この川の水で荷袋の洗浄をしている。


写真(右)2014年8月,フィリピン共和国ルソン島中部、マニラ首都圏マニラ市トンド地区リサイクルするプラスチック製荷袋を洗浄しするっ住民。:河川の汚い水を使って洗濯しているのは、節水、節約のため。このような地区では、井戸はあっても水は汚染されており、飲料水とはならない。しかし、このような地区では、井戸はあっても水は汚染されており、飲料水とはならない。しかし、この川の水で荷袋の洗浄をしている。筆者撮影。

このトンド地区のバランガイには、縫製作業を待つプラスチック製麻荷袋(俗にドンゴロス (dungaree) 、南京袋、Sako:タガログ語)の山がある。これは、荷袋の修理・リサイクルであり、ここに荷袋の製造工場があるのではない。住民の多くが、袋(サック)縫製作業を主な生業にしている。洗った荷袋にはほつれが多いので、ほぐしてミシンを使って手早く袋を縫い上げてゆく。

リサイクルしたPP製サック(南京袋:woven polypropylene bags)を400枚を1台のトライシクルに積んで、売却に行く準備をしている。PP製サック(南京袋:woven polypropylene bags)を1人が1日200袋洗って100ペソから300ペソの収入となる。川で洗ったPP(polypropylene)製サック(南京袋)をミシンで縫う作業は1枚当たり2ペソの収入となる。リサイクルできたサックは、トライシクル1台にPP(polypropylene)製サック400個を積んだ。世界市場では、袋1kg当たりの価格は$0.10 USD Kg.から$0.30 USD Kg.である。


写真(右)2014年8月,フィリピン共和国ルソン島中部、マニラ首都圏マニラ市トンド地区、住民によるプラスチック製(PP加工)ジュート袋(俗にドンゴロス (dungaree) 、南京袋、Sack)の縫製作業。:このような麻荷袋(俗にドンゴロス (dungaree) 、Sack:タガログ語Sako)を縫製しリサイクルする作業が主な生業になっている。ミシンを使って手早く袋を縫い上げてゆく。

リサイクルしたPP(polypropylene)製サック(南京袋:woven polypropylene bags)をトライシクル(Tricycle)に積んで売却に行く。トライシクルに積んで売却に行くところを聞き取りした。

スラム住民への聞き取り・フィールド調査によって、生活の質(QOL)、ベーシックヒューマンニーズの充足、電気エネルギー、木質バイオマスエネルギーから「民活による循環型社会形成促進」の考察にまで、新しい発見と発想を得ることができると思われる。それとも、これは完全な誤解であり、ごみや廃棄物を再利用した暮らし、廃プラスチックの屋根、廃材のエネルギーなどを利用する貧困者を、循環型社会の一員と見なすのは、見当違いなのであろうか。

開発途上国、特にフィリピの都市インフォーマル部門におけるスラム、スカベンジャー、ジャンクショップなど草の根民活に依拠した循環型社会の一端は、鳥飼行博研究室右のアジア写真集の、廃棄物処理場、パヤタス、スモーキーマウンテンなどに掲載されている。
「廃棄物問題」講義コンテンツ

Annual Report on Energy (Japan’s Energy White Paper)

 現代日本の視点では、循環型社会を形成しようとして、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、建設リサイクル法、食品リサイクル法、自動車リサイクル法など多数のリサイクル関係法を整備しているが、これは循環型社会を規制型環境政策で構築しようという枠組みにとどまっている。豊かさを享受する人々が溢れている成熟社会では、市民の環境意識が改善され、環境倫理が認められているはずだが、やはり個人個人の自発的な環境活動だけでは、循環型社会は構築できない、環境より経済が重視されてしまうことなのであろうか。公的介入を伴う循環型社会が前提となっているのはやむを得ないであろう。

他方、開発途上国の国民は、環境意識が十分でなく、循環型社会に興味がないので、大量のごみが投棄されている、海洋廃棄物もマイクロプラスチックも開発途上国の無定見な廃棄物政策が原因であるとする開発途上国環境脅威論が唱えられている。

しかし、開発途上国のスラムや貧困者をよく調べてみると、先進工業国のような規制型環境政策ではなく、民間の自発的な経済活動が、創意工夫、危険な労働、児童労働を伴いながら、民間主体の循環型社会を形成している局面も観察できる。これは、もったいないという節約意識に基づき、廃棄物の中から使える物資を回収、再利用したり再生したりする都市インフォーマル部門を中心とした民間活動であり、草の根民活と呼称することができる。従来の開発経済学では、低所得の貧困者、社会的弱者、違法居住者の住む不衛生なスラムなど問題視されていたマイナス局面ではあるが、この発想を転換して、貧困者主体の草の根民活による循環型社会形成の可能性を見出そうとする研究である。

テキストの拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部「第5章 労働力移動と労働問題」の都市インフォーマル部門から、開発途上国の廃棄物問題を「もったいない」という節約のブリーン経済から考察し、貧困者のベーシックニューマンニーズ(Basic Human Needs)の充足と循環型社会の形成を同時に考察してみたい。これは開発途上国の貧困解消だけではなく、汎アジア型循環型社会の形成のために、日本も環境協力に参加すべきであることを示している。
 
日本は、アジア諸国を中心に古紙、廃プラスチック、廃家電・廃車、廃船など「再生資源」のようにして輸出している。しかし、日本で需要のないこれらの輸出品は、商品でではない。有価物であったとしても、保管料・輸送料・撤去料・取引手数料を考えれば、輸出して収益が上がるものではないのであり、これを「ごみ」という。廃棄物輸出には、厳格な規制があるが、商品にはないので、形式上「再生資源」「商品」の輸出として扱っているが、そのなかには事実上のごみ輸出が多数含まれている。
 
環境協力とは、環境リーダーシップをとって、国際社会で冠たる地位を得るために行うものであろうか。それとも、過去の一人当たり廃棄物、有害化学物質排出の多さから、環境債務を累積させてきたことに注目し、その環境債務返済のために行うものであろうか。汎アジア瞬間型社会形成促進のために、日本が環境協力を申し出るとすれば、それは環境債務の返済か、それとも環境リーダーとしての輝かしい一歩になるのか、どちらであろうか。

批判的検討

Report writing


講義コンテンツと教科書拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』「第9章 地球環境問題」「第10章 持続可能な開発のための環境政策」と研究業績の紀要論文「廃棄物輸出と国外リサイクルを含めた循環型社会の形成」「汎アジア循環型社会の構築の可能性 : リサイクルとゴミ輸出」を熟読して、マテリアルリサイクルを促進するために、汎アジア循環型社会形成のための「共通だが差異ある責任」を考えてみたい。

アジア写真集を見て、論文を読んで、時間をかけ、労力と知識を屈指してレポートを作成すれば、これを敷衍することで、さらなる自分の問題発見、自己実現に繋がるはずだ。

東海大学HK社会環境課程

TorikaiLab, Tokai University

大学での講義 「環境政策I/II」「環境協力論」「開発経済学」は、持続可能な開発を、開発途上国、地域コミュニティの視点も含めて、経済学的に分析する授業です。俗説とは異なる議論を展開し、批判的検討能力を身につけてもらいたい。

当研究室へのご訪問ありがとうございます。論文,データ,写真等を引用する際は,URLなど出所を記載してください。ご意見,ご質問をお寄せ下さる時には,ご氏名,ご所属,ご連絡先を明記してくださいますようお願い申し上げます。 連絡先: torikai@tokai-u.jp
〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1 
東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程
鳥飼 行博 TORIKAI Yukihiro
HK,Toka University,4-1-1 Kitakaname,Hiratuka
Kanagawa,Japan259-1292
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