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◆先進工業国の環境債務累積

先進工業国は、産業革命以来、大量の石炭・石油など化石燃料を燃焼させ、エネルギーを大量消費し続けてきたために、長期間にわたって大気中に大量の二酸化炭素を排出し続けた。これは、毎年の二酸化炭素の排出というフローの大きさだけではなく、長年に二酸化炭素を大気中に累積させたというストックの問題である。つまり、ここ半世紀で、人類は大気中の二酸化炭素濃度を0.029%から0.033%へと上昇させ、温室効果を強めてしまい、それが気候変動・地球温暖化を引き起こすことが懸念されているのである。ここでは、世界の持続可能な開発の実現のために、開発途上国・途上社会の貧困者と先進工業国・成熟社会の市民の役割を「共通だが差異ある責任」として見直してみたい。

「環境政策II」講義コンテンツ

Annual Report on Energy (Japan’s Energy White Paper)



写真(右)2015年8月、東海大学教養学部人間環境学科鳥飼ゼミナールは、恒例となったフィリピン研修でマニラ首都圏マニラ市の旧スモーキーマウンテン(Smokey Mountain)を訪問し、住民のリサイクル、炭焼き、農業、水供給の調査した。ここはマニラ北港近くのごみ捨て場だった場所で、2013年前までは炭焼きが行われていた。しかし、2013年以降は、危険なためか廃止された。現在、スモーキーマウンテンの隣で、炭焼きの原料を買取する業者がトラックでやってくる。筆者撮影。


写真(右)2015年8月、マニラ市スモーキーマウンテンに上る鳥飼行博ゼミナール。マニラ市スモーキーマウンテンでは、大部分の場所で、栽培したサツマイモを収穫している。イモの地下茎ではなく、食用とするのはイモの葉である。ごみの山は台地状に整備されている。 筆者撮影。

スモーキーマウンテンは、旧廃棄物最終処分場で、現在そのごみ山は台地状に整備されているが、無断侵入、不法侵入は犯罪であり、すべきではない。



写真(右)2015年8月、マニラ市スモーキーマウンテンの上に住んでいる住民の住むバラックは廃材、ベッドのスチール枠、ビニールシート、廃タイヤなどの廃品を主な建築資材としている。 ゴミ山跡地で、カモテ(kamote)栽培して暮らす農家が多い。
スモーキーマウンテンは、旧ごみ集積場跡地だが、その山の上に100世帯以上のバラックが並び住民が農業に従事している。主な作物は、カモテの葉だが、トウモロコシ、レモングラス、ヤマイモ(ガビ)、サトウキビなども栽培されている。 筆者撮影。



写真(右)2015年8月、マニラ首都圏マニラ市のスモーキーマウンテンを訪問し、子供たちと遊びながら、貧困生活を余儀なくされている住民にお話を伺う鳥飼ゼミナール。 筆者撮影。

メトロマニラ町から、スモーキーマウンテンの縁まで、ゴムホースによって上水道が、スモーミーマウンテンの縁まで供給されている。ただし水圧が低く、水をためるのに時間がかかる。

マニラ市スモーキーマウンテン。ボーンアゲイン派(Born again)キリスト教会MGOが、子供たちに無料で食料を配給していた。 カトリック教会も子供たちに、スナックなどお菓子を無料配布していた。やはり、すもーみーマウンテンの住民は、貧困者で弱者である立場で、援助を受けるしかないのであろうか。

フィリピン政府による社会保障給付費を受けられず、母子手当、介護保険、生活保護支給もないからこそ、貧困者は自立できるように、自ら仕事を生み出している。草の根民活の都市インフォーマル部門が興隆する。 そのバイタリティーには感服する。日本の大学生が授業が厳しい、忙しいなどどといっているのを聞いて、彼らは一流のインテリなら当たり前だとおもっている。難しいことを学んでいる大学生は、自分たちとは、まったく次元が異なるとみんな思っている。

子供たちはこんなこといっている。スマホ見せて。写真撮って。日本の大学で勉強してなんて頭いいんだ、すごい。なぜスモーキーマウンテンにくるの。それはね-----。最後に、わたしも日本人になりたい、と言われた。


写真(右)2015年8月、マニラ首都圏マニラ市のスモーキーマウンテンを訪問した。このバラック住居に住む三世帯家族は、マニラ市の旧ごみ捨て場でトンド近くのスモーキーマウンテン(Smokey Mountain)の上農業を営む。トウモロコシ、カモテの葉を収穫する。筆者撮影。

◆「環境政策I/II」授業には、テキスト拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部を入手していることが前提です。教科書ページを指定したレポートも課します。受講にテキスト必須です。教科書を手元に置いていないと講義は理解できません。

テキスト鳥飼行博研究室の左バナー・ボタン「研究業績」に挙げたテキストの拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部「第9章 地球環境問題」から、気候変動、すなわち化石燃料消費などに起因する温室効果ガスの排出増加による地球温暖化の被害が、農業の不振による貧困者のベーシックニューマンニーズの欠乏という大きな人権侵害を引き起こすことを学んだ。そこで、今回は、その原因について、誰がどのように負担すべきかという環境協力のフレームワーク、基本方針を議論してみたい。
 
世界の温室効果ガスの過半を占めている二酸化炭素(CO2)は、主に化石燃料の燃焼という枯渇性エネルギーの消費に伴うものである。同じエネルギー消費でも、自然エネルギー、バイオマスエネルギー、水力発電のように運用に際してCO2排出増加に繋がらない再生可能エネルギーもあるが、エネルギー消費の過半が石炭、石油、天然ガスという化石燃料の燃焼に使用されていることから、エネルギー消費の大きさが温室効果ガスの排出と正の相関関係を持っている。
 
そこで、各国のエネルギー消費を比較することが、ここでの分析の第一歩になるが、これは一次エネルギー消費の比較である。つまり、火力発電のように化石燃料を燃焼させ、熱エネルギーを電気エネルギーとするなら、エネルギー消費の計算は、一次的な熱エネルギーの段階であり、二次的な電気エネルギーではない。

また、エネルギー消費の単位は、熱エネルギーであればカロリーが使用できるが、水1gを1気圧の下で水温を摂氏1度の温度上昇させるのが1カロリーであり、その国際比較は、数値が過大で馴染みにくい。そこで、同じ熱量を生み出すことのできる赤るの容量あるいは重量をもって、一次エネルギー消費を国別に比較できる。

これが、テキスト表9-1「一次エネルギー消費とCO2排出量の国際比較」(p.140)である。これを見れば、アメリカのエネルギー消費が多く、それに伴ってCO2排出量も多く、世界で最も地球温暖化を進めているのはアメリカである。そして、中国のエネルギー消費も1993年には日本と同水準以上であり、一国のCO2排出量は日本よりも多い。そこで、地球温暖化を進めているのは、日本ではなく、中国であるという開発途上国環境脅威論が主張されることになる。また、旧ソ連・東欧もエネルギー消費が多く、それにともなってCO2排出量も多い。つまり、グローバルな地球温暖化の要因は、日本よりも、アメリカ、中国にあるのであって、汚染者負担の原則(PPP)に従えば、日本やEUだけでなく、アメリカ、中国、ロシアなど世界がブローバルナ環境協力を進めて、CO2排出削減に取り組むべきであるということになる。

しかし、このような国家単位の環境分析は、国際性はあるものの、持続可能な開発には不十分である。なぜなら、持続可能な開発とは、人間ととり一人が持つベーシックニューマンニーズを充足し、将来世代までも地球環境を保全して、真に豊かな社会を目指す人権であるからである。これは、国家の権利ではなく、人権であるから、国別比較というよりも、そこに住む一人ひとりの問題であり、国土の広さ、国も持つ資源、人口に依存する権利ではない。そこで、一人ひとりの人権ということになれば、エネルギー消費についても、一国レベルではなく、国民一人当たりのエネルギー消費が問題になる。そして、地球温暖化の要因となるCO2排出量についても、国別排出量よりも、国民一人当たり排出量が問題となるのである。
 
テキスト表9-4「一次エネルギー消費とCO2排出量の国際比較(2)」は、国別ではなく国民一人当たり一次エネルギー消費と一人当たりCO2排出量であるが、ここから見れば、一人当たりの温室効果への寄与度には、所得格差そのままに大きな格差が存在していることがわかる。
 


世界各国の一人当たりCO2排出量を横断分析(クロスセクション)で見ると、途上社会と成熟社会では、大きな南北格差がある。また、時系列分析(タイムシリーズ)で見ると、途上社会では1960年の低い排出量から2014年の高い排出量に急増している一方で、EUは1990年の高い水準から若干減少し、アメリカや日本は1990年の高い水準からさらに高まっている。

さらに、地球温暖化とエネルギーを扱った俗説の誤りは、ストックとフローを明示していないことである。温室効果ガスの温室効果とは、毎年の排出量が決めるものではなく、大気中の温室効果ガスの濃度である。そして、これを決めるのは、1年間に排出されたCO2量、すなわちフローではなく、長期間排出されてきたCO2の累積量すなわちストックである。エネルギー消費が急増したインド、メキシコ、ブラジルのような開発途上国は、1970年代までは、アメリカ、日本、ドイツのような先進工業国と比較して、少ない温室効果ガスしか排出していなかった。それば、21世紀の急成長を背景に、エネルギー消費が急増し、温室効果ガス排出が増加した。

しかし、最近50年間の累積年数を見れば、このような国の温室効果への寄与は小さいのである。つまり、先進工業国が、長年に渡って大量消費や大量廃棄を継続してきたことが、地球温暖化の原因となった温室効果ガスの累積、廃棄物の堆積・海洋汚染、フロンの濃度上昇によるオゾン層の破壊など環境債務を累積させ、それが地球環境の悪化を招いた側面が指摘できる。

批判的検討のレポート

Report writing

講義コンテンツとテキスト『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』「第9章 地球環境問題」から、地球温暖化・気候変動の被害について整理したうえで、その被害にどのような特徴があるかを、南北格差を踏まえて説明しなさい。

但し、鳥飼研究室左バナーボタン「アジア写真集」所蔵
(左段)中国 貴州省の持続可能な農業 Sustainable Agriculture
(中段)タイの米作農村 Thai Ricefarmer
(右段)フィリピン 早乙女による田植え Rice Transplanting 2013
の3本を閲覧して、開発途上国の農業について、掲載写真のディテールを具体事例として引用しながら考察すること。 (先の課題)

そして、講義コンテンツと教科書拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』「第9章 地球環境問題」を読んで、地球温暖化の要因について、一人当たりエネルギー消費の南北格差に注目して、先進工業国が環境債務を累積させてきたことが、温室効果に大きく寄与していることを説明しなさい。

これはレポート課題のサンプルです。正式なレポートは、manabaに掲示します。

東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程

TorikaiLab, Tokai University

大学での講義「環境政策I/II」「環境協力論」「開発経済学」 は、持続可能な開発を、開発途上国、地域コミュニティの視点も含めて、経済学的に分析する授業です。俗説とは異なる議論を展開し、批判的検討能力を身につけます。

当研究室へのご訪問ありがとうございます。論文,データ,写真等を引用する際は,URLなど出所を記載してください。ご意見,ご質問をお寄せ下さる時には,ご氏名,ご所属,ご連絡先を明記してくださいますようお願い申し上げます。 連絡先: torikai@tokai-u.jp
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東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程
鳥飼 行博 TORIKAI Yukihiro
HK,Toka University,4-1-1 Kitakaname,Hiratuka
Kanagawa,Japan259-1292
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