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◆「開発経済学」世界の人口問題?


2012年8月,フィリピン共和国ルソン島北部、カリンガ州山村の棚田での稲穂の刈り入れ作業:コルディリェラ行政地方(Cordillera Administrative Region:CAR)チコ川の流れる大渓谷の上部に棚田が広がる。棚田の収穫作業には、労働交換(ゆい)と賃金労働が混在する。穂先だけを刈り取るのは、運搬するときの重量を軽減するためと、棚田にバイオマスを残して、たい肥化するため。チコ川上流には、世界遺産のバナウェ・ライステラスがある。筆者撮影。


2012年8月,フィリピン共和国ルソン島北部、カリンガ州山村の棚田での稲穂の刈り入れ作業:コルディリェラ行政地方 カリンガ州ティンラヤン町山村ツルガオの棚田。竹ひごを歯で噛んで引っ張り、きつく稲束を縛る。この時、「きゅっきゅっ」と音がする。 大学生時代から、開発途上国を訪問し、汗だくになり、歩いて疲れたものの、泊めてくれた農家で質素だがおいしい食事を頂いて喜びながら、フィールド調査を行ってた。インパクトがあったため博士論文も「不確実性下の経済行動-フィリピン米作農村の事例研究」を選び、フィールド調査をして執筆した。筆者撮影。


2015年8月,フィリピン共和国ルソン島北部、カリンガ州山村の棚田での稲穂の刈り入れ作業:大学生時代から、開発途上国を訪問し、汗だくになり、歩いて疲れたものの、泊めてくれた農家で質素だがおいしい食事を頂いて喜びながら、フィールド調査を行ってた。インパクトがあったため博士論文も「不確実性下の経済行動-フィリピン米作農村の事例研究」を選び、フィールド調査をして執筆した。筆者撮影。

「開発経済学」講義コンテンツ2

Annual Report on Energy (Japan’s Energy White Paper)


Population Research Institute
Global fertility rates are low and continue to decline. Are we witnessing a global population collapse?
4,066 回視聴•2019/09/09

   世界人口は,開発途上国を中心に増加し,1970年36.9億人,1980年43.3億人,1990年52.5億人,2000年60.6億人と増加したが,年平均人口増加率は,1970-1990年1.8%,1990-1999年1.4%,2000-2005年は1.2%と低減した【1】。マルサス以来,人口増加に対して,食糧生産の増加が追いつかず,貧困を蔓延させる,あるいは食糧不足から飢餓が起こる危険が指摘されたが,資源エネルギーと環境の制約も強まっている。

人口と貧困の関連をみるには,世界各国を開発途上国と先進工業国とに南北に区分するのが便利である。実際,世界銀行では,1999年の1人当たりGNIを基準にして,低所得国(1人当たりGNI755ドル以下),中所得国(756〜9265ドル),高所得国(9266ドル以上)に区分しており、この区分を基準にすれば、世界人口の80%以上は、低・中所得国という途上社会に住んでいる。つまり、世界で欧米・日本のような成熟社会に入った先進工業国の人口は、世界人口20%に過ぎない少数派である。換言すれば、「宇宙船地球号」の地球市民と呼ばれる乗員たちの過半数以上は、宇宙船の2・3等室にいるのであって、1等室や特等室にいる成熟社会の金持ちや開発途上国の一部の富裕層とは、決して待遇を受けているわけではなく、かえって、人権侵害、ベーシックヒューマンニーズの未充足など困難な状況下にあるのかもしれない。
 
開発というものは、国家の経済発展の権利ではない。開発の権利とは、貧困者であっても、金持ちであっても地球に住む私たち誰もが保有する人権の一つである。第二次世界大戦後の世界人権宣言以降、地球市民の人権を確立することが重要な世界的課題として世界各国の政府に公認された。開発の権利は、本来、上・国家からの目線ではなく、下・市民からの目線で人間開発を進めることである。国際連合のような国際社会を代表する組織でも、開発の権利が人権として認められるようになったことの意味は大きい。それでは、なぜ人間中心の開発(人権)の一環として「持続可能な開発」が注目されるようになったのであろうか。

国連では,先進工業国を欧州(東欧・旧ソ連を含む),北米,日本,オーストラリア(豪),ニュージーランド(NZ),イスラエル,南アフリカ共和国とし,開発途上国はそれ以外のアジア,中東,アフリカ,中南米として区別している。

UNICEF(ユニセフ)では、平均寿命(出生時の平均余命)は開発途上国(旧ソ連アジア地域を含む)の63歳に対して,先進工業国(東欧・旧ソ連欧州地域を除く)は78歳と15年も長い。これは,先進工業国は開発途上国よりも,1人当たり所得が21倍も高く,衛生施設や水源が整備され,5歳未満の乳幼児死亡率が15分の1と低いことに求められる。また,教育の普及によって,成人識字率は開発途上国の74%に対して,先進工業国は96%と高い。死亡率は南北ともに9で等しい。

先進工業国の人口は2050年に11.8億人で,2001年水準とほとんど変化ないが,開発途上国の人口が49.4億人から81.5億人に増加する。2000-2005年の人口増加率は,開発途上国1.5%,先進工業国0.2%で,前者の合計特殊出生率は2.93で後者(1.50)を大きく上回っている。65歳以上の老年人口比率の差異を反映して死亡率の格差があまりないことをふまえると,出生数の多さが人口増加に直結しているが,その一方で、人口増加率は,開発途上国でも低下する傾向にある。

世界173カ国について,合計特殊出生率と乳幼児死亡率の間には,反比例の相関関係が見て取れ,低所得国は多産多死,中所得国は中産中死,高所得国は少産少死である。経済発展に伴なう衛生・医療の整備,乳幼児死亡率の低下によって,子供の死亡に打ち勝つための出産インセンティブ(動機・意欲)は低くなる。1999年の先進工業国の出生率は1.6,1990-1999年の年平均人口増加率は0.6%で,後発開発途上国の出生率4.9,人口増加率2.5%は際立って高い。

しかし,過去10年間で,合計特殊出生率は南北ともに低下し,開発途上国の低下速度は,先進工業国を上回る。過去10年間で,ナイジェリア,バングラデシュの出生率は1以上も低下し,開発途上国平均でも3.5から2.9に0.6も低下した。つまり,1人当たり所得の向上,経済発展に伴って,開発途上国・先進工業国を問わず、世界各国の出生率・死亡率は,多産多死→多産中死→中産中死→少産少死と少子化する傾向が明らかである。

国連の人口推計によれば、2000年の老年人口比率は先進工業国14.3%,開発途上国5.1%であるが,南北別の老年人口は先進工業国1億7033万人,開発途上国2億4809万人と,世界の老年人口の59.3%は開発途上国の人々である。国連の中位推計によれば,2025年の老年人口は先進工業国2.6億人,開発途上国5.7億人に達し,今後25年間に増加する老年人口4億624万人の78.0%は開発途上国で生じる。

15歳未満の若年人口が65歳以上の老年人口を上回る社会を、少子高齢社会と定義すれば、開発途上国は少子高齢社会にはないが、少子化、平均寿命の延長という長寿化、さらに老年人口の増加という高齢化が生じているのであった、この傾向は、南北共通であるといってよい。換言すれば、南北を問わず世界は少子高齢化しているのである。

しかし,世界の65歳以上老年人口の過半数が開発途上国に暮らしているうえに,開発途上国における老年人口増加率は,先進工業国,日本を遥かに上回っており,高齢化は,開発途上国にあって日本以上に顕著に進行している。したがって,少子高齢化はグローバルに進行しており,先進工業国は少子高齢化が,開発途上国は人口増加が進んでいるという二分法は当てはまらない。高齢者に医療,年金,福祉が必要であれば,それは南北問わず同様に充足されるべきものである。今後50年間で,開発途上国では,先進工業国以上の速度で年少人口比率が急速に低下するから,育児,児童教育,児童福祉などの負担が低下する一方で,急上昇する老年人口比率に対応できるように医療,年金,福祉を整備する必要が生まれてくる。これは,先進工業国と同様の問題が、開発途上国で生じることを意味するが、南北がともに少子高齢化しているのであれば、その問題点も類似してくるといえる。

日本において合計特殊出生率が低下し、老年人口比率は1975年7.1%,1985年10.1%,1995年14.5%と上昇し,2025年には27.4%へと高まると予想される。そこで,
1)労働力減少・市場縮小など活力(経済力)の低下,
2)文化や国防も含めた国力の低下,
3)貯蓄率低下による投資低迷,
4)社会保障の維持の困難,
という問題が発生すると、多数の市民、マスメディアから行政官までが主張している。

しかし、これら4つも問題に対しては、次のような点を踏まえれば、少子高齢化の大問題であるとはとても思えない。

第一に,少子高齢化によって,労働力不足,可処分所得の減少から,個人消費も低迷させ,市場が狭隘になる。しかし,日本の女子の労働力率は,大きく高まっている。女子の高学歴化は晩婚化にも繋がるが,同時に社会進出を進めた。女子の労働力率は,新卒者の多い20歳代前半までは高く,その後,結婚・出産・育児による退職により低下した後,育児の修了した40歳代で復職して,再び高まるという逆W型であった。しかし,20〜30年間で,25-39歳の退職減少により,この年齢層の労働参加率が上昇し,女子全体の労働力化が進んだ。女子の労働形態としては,従来,家族従業員,自営業の雇用も多かったが,近年では勤労者が増えた。勤労者比率は,1975年40.5%,1985年60.0%,2000年82.4%と,年齢にかかわらず高まっている。したがって,女子労働力を積極的に活用できれば,少子高齢化に伴う労働力不足を回避できる。しかし,開発途上国の労働力としては,勤労者だけでなく,個人経営体,内職,家内工業,家族労働力も草の根民活として認識することが重要である。日本の高齢者の労働参加率は低下したが,これは農林漁業に雇用されていた高齢者,家族従事員が減少したためで,国レベルの生産水準が低下したわけではない。

つまり,女子の社会進出が,高齢化に伴う労働力不足を相殺するし、これに労働節約的技術の開発,リストラの進展,ニートとフリーターの急増、失業率の高まりが並存している以上,労働力不足を理由とした出生率回復の意義はますます小さくなっている。また,個人消費は豊かさを達成する手段であるが、日本の世論調査によって,生活程度は中の中,物質的豊かさよりも精神的豊かさを重視するとの回答率が高まってきている。つまり、消費を下支えする存在としての人口は,経済・ビジネス・市場の視点では重要であろうが、真の豊かさ増進とは結び付かない。個性化、価値観の多様化の中で,人口停滞が、経済成長の足かせになるという議論は、拝金主義者の発想である。

第二に,少子高齢化によって,経済力や国防力が損なわれ,言語など自国文化力や国力の低下が生じるとされる。しかし,先進工業国全体では,2000年から2025年に年少人口は3491万人減,経済活動人口(15-64歳)は2701万人減と推計されるが,老年人口が8932万人増加し,全体として2741万人の人口増となる。つまり,人口急減は起こらない。また,高齢化が国力低下になるとの見解は,国力を支えるのは労働力,兵士であるとの国家主義・富国強兵の発想に基づいている。国力は,労働力以外にも,資本,資源エネルギー,土地,技術に依存しており,労働力の不足をこれらの生産要素で代替できる。国防力についても,兵士が不足しても,最新兵器を装備することで充実できる。老年人口こそ熟達した伝統的文化の担い手であり、余暇・旅行の達人である点に注目すれば,高齢化を国力低下と結びつけて憂える必要は全くない。

第三に,将来の備えに回す貯蓄を重視する若者は,老人に比して貯蓄率が高いために,高齢化に伴って貯蓄率の低下が起こり,投資資金を賄うことが困難になるといわれる。しかし,国内貯蓄率が低下しても,外国貯蓄を銀行貸し付けや債券貸し付けとして取り込むことが可能である。つまり,国際金融市場のグローバル化に注目すれば,貯蓄率低下は,資金供給源の枯渇を意味しない。

第四に、社会保障制度を維持するために、先進工業国が出生率を回復し、人口増加政策をとるのであれば、少子高齢化している大半の開発途上国はどのように反応するであろうか。日本が少子高齢化に伴う社会保障問題への対応として、出生率回復を主張するのであれば、少子高齢化する開発途上国も、日本の「失敗」を繰り返さないように、出生率回復を主張するようになる。しかし、このような「出生率回復」は、世界の人口増加政策を誘発し、これは、世界の人口増加率を引き上げ、自然、資源など環境に対する人口圧力を高める。そして、環境汚染、廃棄物増加、温室効果ガス排出増加、森林破壊などあらゆる環境問題を悪化させるであろう。さらに、交通。水利用、居住空間などインフラストラクチャー(インフラ)に関する人口の利用圧力を高め、過密状態や混雑状態を現出することに繋がる。

対照的に,少子化・人口停滞が世界で進行すれば、環境とインフラストラクチャーへの人口圧力は低減し,1人当たり資源・環境・インフラの利用可能性は大きくなり,持続可能な開発に寄与するのである。南北を問わず世界の少子高齢化は、人口圧力の軽減から環境問題の緩和に結びつきに、持続可能な開発に寄与することになろう。

今回のバーチャルレクチャーのテーマは、次の3点である。テキスト『開発と環境の経済学』pp.21-25を熟読しながら、考察を進めてください。後日、これと同様の課題レポートの作成を授業支援システムで開示し提出を求めます。

1)環境への人口圧力、すなわち一人当たりの環境負荷(資源消費・廃棄、温室効果ガス排出量)の大きさからみて、人口増加が環境悪化を悪化させることを簡単に説明しなさい。ただし、同じ一人の与える環境負荷は、一人当たり所得によって異なってくることも考察しなさい。

2)人口増加とは、個人・家族のレベルでは、出産・育児を含む出生の意思決定の問題であり、決して、国家レベルの適正人口といった不確かな恣意的な課題ではない。そこで、出生率が、どのような要因で決まるかについて、子供の可愛さ、子供の持つ経済的意味、子供にかかる経済的負担に注目して、説明しなさい。

3)ジェンダー不平等とジェンダー平等を比較して、その出生率に与える影響を、女性の高学歴化・社会進出に注目して、考察しなさい。

Virtual Lecture Series鳥飼行博研究室アジア写真集やVirtual Classバーチャルクラス掲示もご覧ください。

「開発経済学」課題レポートサンプル

Report writing


<レポート課題サンプル>

テキスト『開発と環境の経済学ー人間開発論の視点から』[ 鳥飼行博 ]「第2章 開発途上国の人口増加」pp.21-25から、出生(出産)の意思決定・人口増加の原因を、子供を持つことの意義、子供を持つことの費用、ジェンダー不平等の3つの視点から説明しなさい。

1)「まとめレポート」をワード(word)で作成、ふさわしい題名,学番,学生氏名を明記。
2)まとめレポートの文字数は、1000文字以上、2400文字以下。他サイトの引用は不可。
3)このレポート課題はサンプルなので提出には及びません。実際の課題レポートは、授業支援システム(OpenLMS)に掲載。

東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程

TorikaiLab, Tokai University

大学での講義「開発経済学」は、持続可能な開発を、開発途上国、地域コミュニティの視点も含めて、経済学的に分析する授業です。俗説とは異なる議論を展開し、批判的検討能力を身につけます。

当研究室へのご訪問ありがとうございます。論文,データ,写真等を引用する際は,URLなど出所を記載してください。ご意見,ご質問をお寄せ下さる時には,ご氏名,ご所属,ご連絡先を明記してくださいますようお願い申し上げます。

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東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程
鳥飼 行博 TORIKAI Yukihiro
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