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◆先進工業国の環境債務累積

先進工業国は、産業革命以来、大量の石炭・石油など化石燃料を燃焼させ、エネルギーを大量消費し続けてきたために、長期間にわたって大気中に大量の二酸化炭素を排出し続けた。これは、毎年の二酸化炭素の排出というフローの大きさだけではなく、長年に二酸化炭素を大気中に累積させたというストックの問題である。つまり、ここ半世紀で、人類は大気中の二酸化炭素濃度を0.029%から0.033%へと上昇させ、温室効果を強めてしまい、それが気候変動・地球温暖化を引き起こすことが懸念されているのである。

写真(右):2006年3月,中国南部、貴州省黎平県、山村から山道を住民たちが牛を追って登って、里山に着いた。あたりを見回して、薪採取がしやすいところを探している。これは、アクセスしやすいというより、薪が十分にとれる場所という意味である。樹木は時間がかかるが、再生することを知っている。再生可能な範囲で木質バイオマスを集めるのである。筆者撮影。

中華人民共和国貴州省は、面積18万平方キロと日本の半分の大きさを誇るが、2010年人口は4000万人、省内生産(GDP)は4550億元(中国全土26位)、1人当たりGDPは1万2000元と全国最下位の31位である。雲南省は山岳地とはいっても、に鉱業・観光業も栄えているが、貴州省は農業が主流である。

写真(右):2006年3月,中国南部、貴州省黎平県、里山における薪採取。ナタで小枝を切り、同じ長さにそろえる。このような細い枝を粗朶という。山村では、薪を用いて熱エネルギーを起こし、それによって調理をしている。調理に熱エネルギーが利用できなければ、人々の生活はどうなるだろう。筆者撮影。

「シバ」を集めるといっても、落ちている枝は少ないので,鎌で小枝を殺ぎ落として集めている。灌木の中に、柴を集めておいてから、再び上の山道に運び、束ねて人力で運ぶ。これが、伝統的エネルギー(バイオマスエネルギー)の利用方法である。

開発途上国の山村居住者、農民は、教育水準が低い、未熟練だと悪く言われるたり、社会的弱者と見下されて援助対象者のように扱われたりする。彼らが、バイオマスを重要なエネルギーとして、再生可能エネルギーで生活の大半のエネルギーを賄っていることは忘れられている。「商業的エネルギー」という認識があれば、電気・ガスをエネルギーとして利用するには、支払いが必要だと思い当たるが、木質バイオマスなら、里山で採取した薪・粗朶ならただである。

薪、藁のようなバイオマスは、燃料や飼料として有効利用できるが、広い範囲に分散しているために、収集する手間と時間がかかる。運搬するにも労力が必要である。バイオマス直接利用には、手を汚し、汗をかく作業が必要で、「クリーン」ではない。使用すれば、灰や燃えカスが残り、真黒な煤が付着する。固形バイオマス直接燃焼は「グリーン経済」の一翼を担っているが、実は利用時に汚れを気にしなくてはならず、真の意味での「クリーン・エネルギー」ではない。しかし、直接熱エネルギーを利用することで、電気エネルギーに変換・送電するときの損失がなく、効率的に利用することが可能である。



写真(右)2006年3月,中国南部、貴州省黎平県、山村からさらに里山に分け入って、薪を採取し、それを束ねて家路を帰る。「シバ」を、人力で運搬し、山道を下って30分から45分かけて自宅にまで運ぶ。分散したバイオマスエネルギーを収集し利用するには、労力が欠かせないのであって、現在の日本の「里山」では運搬には、自動車を使うしかないであろう。山道を下るが、担いでいる薪(粗朶)は重いので、下り道だからといって楽なわけではない。山林から棚田を通り、集落に向かう。筆者撮影。

  重労働であるにも関わらず薪を運搬し再生可能エネルギーを利用しているのは、薪がただである、すなわち無料エネルギーであるからだが、このことは、エネルギーの地産地消であり、食料の地産地消が有償であるのとは異なっている。その違いを比較すると面白い。

貧困者は、節約、もったいないの意識が高い貧困者は、少ないエネルギー利用で調理を済ませたい。これがエネルギー利用効率の向上である。山村、農村では、バイオマス・エネルギーが利用がとても盛んである。これは、日本の農村とは大違いである。環境意識がなくては環境保全できないという人は、グローバルな視点で、節約の意味する「意図せざる環境保全」の重要性に気付くべきであろう。この点は、拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部、での指摘したグローバルでかつローカルな視点である。


雑談: 大学における研究と教育

University & Education

◆大学が最高学府ということは,その社会的意義は学生の学力向上によって,人間が本来持つ能力を十分に発揮できるようにすること,すなわち人間開発,人材育成を進めることに第一の社会的意義があると考えられます。友達作り,アルバイト経験も大学時代には大切なことですが,これは学問と並行して行われたり,経験したりするものでしょう。

◆日本では,進学率向上から大卒も珍しくはありませんが,世界ではこのような大学教育を受けられる人々は多くはありません。世界人口65億人のうち,人口比でいえば80%以上の人々は,大学教育を受けたくともその資金も機会も持っていないのです。今後ももてない人々なのです。大卒はグローバルに見れば,まさにエリートですし,世界の人々からも社会に貢献できるエリートたることを期待されています。したがって,世界大学競争では,大学たるからには高い学問を実につける必要があり,そのような優秀な学生を世界に送ることが大学の社会的責任と考えられます。

ところで,現段階では,国際的な日本の高等学校の学力は上位にあります。OECD生徒の学習到達度調査(PISA),すなわち調査対象母集団を「高等学校本科全日制学科」の1年生(15歳)、約140万人と定義し、その学力を調査すると,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーは,上位1位あるいは2位グループに属してます(→OECD2000年PISA)。

◆しかし,これは,15歳の学力であり,日本の大学卒業時の学力は,依然と比して大いに低下しているというのが多くの大学人,社会人の認識です。

◆学生や学生の保護者におもねるような大学や大学人は、短期的には支持されるでしょうが,学生の学力を高めないままに卒業生を送り出す大学は,教育を忘れているといって過言ではありません。当然、社会的にも支持できない高等教育機関ということになります。世界大学大学競争を踏まえ,研究も教育もどちらも熱意をもって取り組む大学こそが,世界の大学評価に耐えることができるのです。



◆私学は独自の教育理念,経営理念で大学を運営してよいのしょうが,それでも公的支援を背景にしていることを忘れてはいけません。大学に社会的意義がある以上,私学であっても公的な支援は当然のこととも考えられます。実際,日本の私立大学は,国庫から莫大な補助金を受け,さらに課税面でも企業や勤労者以上に税制上の優遇措置を受けて運営されているます。

◆私立大学への2004年の公的助成金としては,
1)私立大学経常経費補助 3263億円
2)私立大学教育研究装置施設整備費補助168億円
3)私立大学研究設備整備費補助72億円 
に達しています。(→補助金)。

◆私立大学への税制上の優遇措置としては,非課税となる税目として,
1)国税として, 法人税,所得税、登録免許税 ,
2)地方税として, 住民税、事業税、事業所税(収益事業に係るものを除く),不動産取得税、固定資産税、特別土地保有税、都市計画税(目的外不動産を除く)
と,税制上の優遇措置が広範に認められています。
学校法人の法人税の非課税措置は,非収益事業に限定されますが,収益事業あっても,税率は22%,みなし寄附金の繰り入れ率50%(当該金額が年200万円未満の場合は200万円)であり,一般企業の法人税(30%)よりも低率です。(→税制上の優遇)。 

◆私学と言えども公的な支援ナシに経営は立ち行かないのであって,公的支援を受けている以上,公的な役割として優位な学生を育て上げる義務が私立大学にも課せられているはずです。簡単化すれば,学力を高め,優位な人材を育成することが大学の第一義的な課題であるといってよいでしょう。


◆本来,研究や教育が充実してこそ,入学希望者や教員の評価も高まるはずですが,これは完全情報という状況について当てはまることです。 不完全情報の下では,大学の研究教育が充実しているように見える,という外観を整えることが有利ですから,「大学」の内実が伴わなくなるかもしれません。たくさんの学生・留学生を受け入れながら教育を放棄し,学費集めに専念する「大学」は,本当の大学とはいえません。ありあわせの講義・大学教授を見栄えよい科目名称をつけて並べる「カリキュラム」は,本当のカリキュラムとはいえません。受講した学生が、落胆する授業の多くは、学生人気に迎合した内容の無い、あるいは内容の伴わない名目だけの「つまらない授業」だからです。このような授業は改革する必要がありますが、これは大学改革・教授改革にもつながるはずです。

◆社会人の方や学生諸君は,大学の心理状況や教職員の内面・本音は見えにくいようです。マスメディアで取り上げられているように「教育も重視した大学に転換するために,大学教授の意識改革を図る」「魅力ある授業を提供する」という改革の主張には大いに賛同できます。また、このような世論、学生の意向を背景に大学改革が行われているのも事実です。しかし、魅力ある大学作りがうわべで終わってしまうと、これは膨大な国民の資金負担を受けている大学としては,堕落ということです。 教員の見識や学識を引き下げざるを得ないような状況,学費さえ支払ってくれれば学力低下を容認するような状況,このような大学教育を阻害する状況が当たり前になったら,日本の大学の存在意義や魅力は低下してしまいます。「大学教授のための大学」「大学のための大学」ではいけないのであって,大学生き残りを優先し,競争原理を導入した教育であっても,安易な商業主義に堕してしまっては,有意義な大学教育環境、興味ある授業を提供することはできません。世界大学大学競争を踏まえて,研究も教育もどちらにスタッフ,資金を投入し,設備を充実させ,適切なプログラムを組むことで,その大学の評価が高まることになるのです。

◆安易な商業主義,儲け主義に出してしまわない効果的な大学改革のための一番のポイントは,教育研究を充実させるために,卒業生の評価,父母の評価,卒業生を受け入れた会社・社会の評価を取り入れることです。世界の大学と積極的に競争して行くことです。卒業生は,大学の資産でもあり,大学教育の結果の表れでもあります。世界で活躍する卒業生の能力向上,社会貢献,生産活動,創作活動などは,いわば本人の努力・才能と大学の教育理念の賜物です。その評価こそが,大学教授や授業の評価に繋がり,充実した教育を支えた研究研鑽の評価にも関連してきます。(2008年鳥飼行博記述のまま、変更・追加・削除なしに掲載)


丸川珠代環境相 第3次安倍改造内閣が発足 就任会見(2015/10/07)
「安倍晋三首相は7日、内閣を改造し、皇居での閣僚認証式を経て第3次安倍改造内閣が発足した。改造人事では19人の閣僚のうち10人を交代させ、女性は1減の3人になった。初入閣は9人。丸川環境相は、東京電力福島第1原発事故や地球温暖化問題など山積する課題に「全力で取り組む」と意気込んだ」KyodoNews

Virtual Lecture Series鳥飼行博研究室や電子掲示板のブログ掲示もご覧ください。

「環境協力」講義コンテンツ

Annual Report on Energy (Japan’s Energy White Paper)


テキスト鳥飼行博研究室の左バナー・ボタン「研究業績」に名前を挙げた、授業テキストの拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部「第9章 地球環境問題」から、気候変動、すなわち化石燃料消費などに起因する温室効果ガスの排出増加による地球温暖化の被害が、農業の不振による貧困者のベーシックニューマンニーズの欠乏という大きな人権侵害を引き起こすことを学んだ。そこで、今回は、その原因について、誰がどのように負担すべきかという環境協力のフレームワーク、基本方針を議論してみたい。
 
世界の温室効果ガスの過半を占めている二酸化炭素(CO2)は、主に化石燃料の燃焼という枯渇性エネルギーの消費に伴うものである。同じエネルギー消費でも、自然エネルギー、バイオマスエネルギー、水力発電のように運用に際してCO2排出増加に繋がらない再生可能エネルギーもあるが、エネルギー消費の過半が石炭、石油、天然ガスという化石燃料の燃焼に使用されていることから、エネルギー消費の大きさが温室効果ガスの排出と正の相関関係を持っている。
 
そこで、各国のエネルギー消費を比較することが、ここでの分析の第一歩になるが、これは一次エネルギー消費の比較である。つまり、火力発電のように化石燃料を燃焼させ、熱エネルギーを電気エネルギーとするなら、エネルギー消費の計算は、一次的な熱エネルギーの段階であり、二次的な電気エネルギーではない。

また、エネルギー消費の単位は、熱エネルギーであればカロリーが使用できるが、水1gを1気圧の下で水温を摂氏1度の温度上昇させるのが1カロリーであり、その国際比較は、数値が過大で馴染みにくい。そこで、同じ熱量を生み出すことのできる赤るの容量あるいは重量をもって、一次エネルギー消費を国別に比較できる。

これが、テキスト表9-1「一次エネルギー消費とCO2排出量の国際比較」(p.140)である。これを見れば、アメリカのエネルギー消費が多く、それに伴ってCO2排出量も多く、世界で最も地球温暖化を進めているのはアメリカである。そして、中国のエネルギー消費も1993年には日本と同水準以上であり、一国のCO2排出量は日本よりも多い。そこで、地球温暖化を進めているのは、日本ではなく、中国であるという開発途上国環境脅威論が主張されることになる。また、旧ソ連・東欧もエネルギー消費が多く、それにともなってCO2排出量も多い。つまり、グローバルな地球温暖化の要因は、日本よりも、アメリカ、中国にあるのであって、汚染者負担の原則(PPP)に従えば、日本やEUだけでなく、アメリカ、中国、ロシアなど世界がグブローバルな環境協力を進めて、CO2排出削減に取り組むべきであるということになる。

しかし、このような国家単位の環境分析は、国際性はあるものの、持続可能な開発には不十分である。なぜなら、持続可能な開発とは、人間ととり一人が持つベーシックニューマンニーズを充足し、将来世代までも地球環境を保全して、真に豊かな社会を目指す人権であるからである。これは、国家の権利ではなく、人権であるから、国別比較というよりも、そこに住む一人ひとりの問題であり、国土の広さ、国も持つ資源、人口に依存する権利ではない。そこで、一人ひとりの人権ということになれば、エネルギー消費についても、一国レベルではなく、国民一人当たりのエネルギー消費が問題になる。そして、地球温暖化の要因となるCO2排出量についても、国別排出量よりも、国民一人当たり排出量が問題となるのである。
 
テキスト表9-4「一次エネルギー消費とCO2排出量の国際比較(2)」は、国別ではなく国民一人当たり一次エネルギー消費と一人当たりCO2排出量であるが、ここから見れば、一人当たりの温室効果への寄与度には、所得格差そのままに大きな格差が存在していることがわかる。
 


世界各国の一人当たりCO2排出量を横断分析(クロスセクション)で見ると、途上社会と成熟社会では、大きな南北格差がある。また、時系列分析(タイムシリーズ)で見ると、途上社会では1960年の低い排出量から2014年の高い排出量に急増している一方で、EUは1990年の高い水準から若干減少し、アメリカや日本は1990年の高い水準からさらに高まっている。

さらに、地球温暖化とエネルギーを扱った俗説の誤りは、ストックとフローを明示していないことである。温室効果ガスの温室効果とは、毎年の排出量が決めるものではなく、大気中の温室効果ガスの濃度である。そして、これを決めるのは、1年間に排出されたCO2量、すなわちフローではなく、長期間排出されてきたCO2の累積量すなわちストックである。エネルギー消費が急増したインド、メキシコ、ブラジルのような開発途上国は、1970年代までは、アメリカ、日本、ドイツのような先進工業国と比較して、少ない温室効果ガスしか排出していなかった。それば、21世紀の急成長を背景に、エネルギー消費が急増し、温室効果ガス排出が増加した。

しかし、最近50年間の累積年数を見れば、このような国の温室効果への寄与は小さいのである。つまり、先進工業国が、長年に渡って大量消費や大量廃棄を継続してきたことが、地球温暖化の原因となった温室効果ガスの累積、廃棄物の堆積・海洋汚染、フロンの濃度上昇によるオゾン層の破壊など環境債務を累積させ、それが地球環境の悪化を招いた側面が指摘できる。

批判的検討のレポート

Report writing

拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部は東海大学出版部、楽天ブックスなどで入手可能ですから「環境協力」授業には、このテキストを手元に置いていることが前提です。教科書ページを指定したレポートも課します。受講にテキストは必須です。

<まとめレポート課題サンプル>

講義コンテンツと教科書拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』「第9章 地球環境問題」を読んで、地球温暖化の要因について、一人当たりエネルギー消費の南北格差に注目して、先進工業国が環境債務を累積させてきたことが、温室効果に大きく寄与していることを説明しなさい。

1)レポートは、ワード(Word)作成、提出。
2)文字数は、1000文字以上2400文字以下。他サイトの引用は不可。
3)レポート本文には,ふさわしい題名,学番,学生氏名を明記。
4)このバーチャルレクチャーのレポート課題はサンプルで、提出に及びません。実際の課題レポートは、授業支援システム(OpenLMS)に掲示されます。

東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程

TorikaiLab, Tokai University

大学での講義「環境協力論」「開発経済学」「環境政策I/II」は、持続可能な開発を、開発途上国、地域コミュニティの視点も含めて、経済学的に分析する授業です。俗説とは異なる議論を展開し、批判的検討能力を身につけます。

当研究室へのご訪問ありがとうございます。論文,データ,写真等を引用する際は,URLなど出所を記載してください。ご意見,ご質問をお寄せ下さる時には,ご氏名,ご所属,ご連絡先を明記してくださいますようお願い申し上げます。 連絡先: torikai@tokai-u.jp
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東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程
鳥飼 行博 TORIKAI Yukihiro
HK,Toka University,4-1-1 Kitakaname,Hiratuka
Kanagawa,Japan259-1292
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