◆大学が最高学府ということは,その社会的意義は学生の学力向上によって,人間が本来持つ能力を十分に発揮できるようにすること,すなわち人間開発,人材育成を進めることに第一の社会的意義があると考えられます。友達作り,アルバイト経験も大学時代には大切なことですが,これは学問と並行して行われたり,経験したりするものでしょう。
◆日本では,進学率向上から大卒も珍しくはありませんが,世界ではこのような大学教育を受けられる人々は多くはありません。世界人口65億人のうち,人口比でいえば80%以上の人々は,大学教育を受けたくともその資金も機会も持っていないのです。今後ももてない人々なのです。大卒はグローバルに見れば,まさにエリートですし,世界の人々からも社会に貢献できるエリートたることを期待されています。したがって,世界大学競争では,大学たるからには高い学問を実につける必要があり,そのような優秀な学生を世界に送ることが大学の社会的責任と考えられます。
ところで,現段階では,国際的な日本の高等学校の学力は上位にあります。OECD生徒の学習到達度調査(PISA),すなわち調査対象母集団を「高等学校本科全日制学科」の1年生(15歳)、約140万人と定義し、その学力を調査すると,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーは,上位1位あるいは2位グループに属してます(→OECD2000年PISA )。
◆しかし,これは,15歳の学力であり,日本の大学卒業時の学力は,依然と比して大いに低下しているというのが多くの大学人,社会人の認識です。
◆学生や学生の保護者におもねるような大学や大学人は、短期的には支持されるでしょうが,学生の学力を高めないままに卒業生を送り出す大学は,教育を忘れているといって過言ではありません。当然、社会的にも支持できない高等教育機関ということになります。世界大学大学競争を踏まえ,研究も教育もどちらも熱意をもって取り組む大学こそが,世界の大学評価に耐えることができるのです。
◆私学は独自の教育理念,経営理念で大学を運営してよいのしょうが,それでも公的支援を背景にしていることを忘れてはいけません。大学に社会的意義がある以上,私学であっても公的な支援は当然のこととも考えられます。実際,日本の私立大学は,国庫から莫大な補助金を受け,さらに課税面でも企業や勤労者以上に税制上の優遇措置を受けて運営されているます。
◆私立大学への2004年の公的助成金としては, 1)私立大学経常経費補助 3263億円 2)私立大学教育研究装置施設整備費補助168億円 3)私立大学研究設備整備費補助72億円 に達しています。(→補助金 )。
◆私立大学への税制上の優遇措置としては,非課税となる税目として, 1)国税として, 法人税,所得税、登録免許税 ,
2)地方税として, 住民税、事業税、事業所税(収益事業に係るものを除く),不動産取得税、固定資産税、特別土地保有税、都市計画税(目的外不動産を除く) と,税制上の優遇措置が広範に認められています。 学校法人の法人税の非課税措置は,非収益事業に限定されますが,収益事業あっても,税率は22%,みなし寄附金の繰り入れ率50%(当該金額が年200万円未満の場合は200万円)であり,一般企業の法人税(30%)よりも低率です。(→税制上の優遇 )。
◆私学と言えども公的な支援ナシに経営は立ち行かないのであって,公的支援を受けている以上,公的な役割として優位な学生を育て上げる義務が私立大学にも課せられているはずです。簡単化すれば,学力を高め,優位な人材を育成することが大学の第一義的な課題であるといってよいでしょう。
◆本来,研究や教育が充実してこそ,入学希望者や教員の評価も高まるはずですが,これは完全情報という状況について当てはまることです。
不完全情報の下では,大学の研究教育が充実しているように見える,という外観を整えることが有利ですから,「大学」の内実が伴わなくなるかもしれません 。たくさんの学生・留学生を受け入れながら教育を放棄し,学費集めに専念する「大学」は,本当の大学とはいえません。ありあわせの講義・大学教授を見栄えよい科目名称をつけて並べる「カリキュラム」は,本当のカリキュラムとはいえません。受講した学生が、落胆する授業の多くは、学生人気に迎合した内容の無い、あるいは内容の伴わない名目だけの「つまらない授業」だからです。このような授業は改革する必要がありますが、これは大学改革・教授改革にもつながるはずです。
◆社会人の方や学生諸君は,大学の心理状況や教職員の内面・本音は見えにくいようです。マスメディアで取り上げられているように「教育も重視した大学に転換するために,大学教授の意識改革を図る」「魅力ある授業を提供する」という改革の主張には大いに賛同できます。また、このような世論、学生の意向を背景に大学改革が行われているのも事実です。しかし、魅力ある大学作りがうわべで終わってしまうと、これは膨大な国民の資金負担を受けている大学としては,堕落ということです。
教員の見識や学識を引き下げざるを得ないような状況,学費さえ支払ってくれれば学力低下を容認するような状況,このような大学教育を阻害する状況が当たり前になったら,日本の大学の存在意義や魅力は低下してしまいます 。「大学教授のための大学」「大学のための大学」ではいけないのであって,大学生き残りを優先し,競争原理を導入した教育であっても,安易な商業主義に堕してしまっては,有意義な大学教育環境、興味ある授業を提供することはできません。世界大学大学競争を踏まえて,研究も教育もどちらにスタッフ,資金を投入し,設備を充実させ,適切なプログラムを組むことで,その大学の評価が高まることになるのです。
◆安易な商業主義,儲け主義に出してしまわない効果的な大学改革のための一番のポイントは,教育研究を充実させるために,卒業生の評価,父母の評価,卒業生を受け入れた会社・社会の評価を取り入れることです。世界の大学と積極的に競争して行くことです。 卒業生は,大学の資産でもあり,大学教育の結果の表れでもあります。世界で活躍する卒業生の能力向上,社会貢献,生産活動,創作活動などは,いわば本人の努力・才能と大学の教育理念の賜物です。その評価こそが,大学教授や授業の評価に繋がり,充実した教育を支えた研究研鑽の評価にも関連してきます。(2008年鳥飼行博記述のまま、変更・追加・削除なしに掲載)
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丸川珠代環境相 第3次安倍改造内閣が発足 就任会見(2015/10/07) 「安倍晋三首相は7日、内閣を改造し、皇居での閣僚認証式を経て第3次安倍改造内閣が発足した。改造人事では19人の閣僚のうち10人を交代させ、女性は1減の3人になった。初入閣は9人。丸川環境相は、東京電力福島第1原発事故や地球温暖化問題など山積する課題に「全力で取り組む」と意気込んだ」KyodoNews
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