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◆開発途上国環境脅威論への批判的検討

有史以来、薪、木炭は、火として使用され、土器や金属器の発明、文明創生に大きくかかわってきた。この伝統的なバイオマスエネルギーを利用した文明はバイオマス文明といってよいであろう。昔話桃太郎冒頭「お爺さんは山に芝刈りに」と誤解している人であれば、再生可能エネルギーを「新エネルギー」であると思い込み、伝統的エネルギーを使う開発途上国の人々を哀れんだり、開発途上国政府の経済至上主義を嫌悪したりして、環境悪化の原因は、開発途上国にあるという開発途上国環境脅威論に与しても不思議ではない。現代でも世界の再生可能エネルギーの過半は、開発途上国の貧困者が利用している薪や木炭の直接燃焼による熱エネルギーなのだが。バイオマス文明の具体例は、小学生でも中学生でも知っているはずなのだが。


写真(右)2015年8月,フィリピン共和国ルソン島北部、カリンガ州山村の棚田での稲穂の刈り入れ作業:2006年3月,中国南部、貴州省黎平県、山村からさらに山道を婦人たちが連れ立って牛を連れて登ってゆく。筆者撮影。

貴州省の面積は18万平方キロで日本の半分、2010年人口は4000万人、省内生産(GDP)は4550億元(全国26位)、1人当たりGDPは1万2000元と全国最下位の31位である。雲南省のように鉱業・観光業が盛んなわけではないし、産地が多く水田の拡張も難しい。



写真(右)2006年3月,中国南部、貴州省黎平県、里山における薪採取の作業。周囲に棚田が広がる石段を上がり、里山に入り、その急斜面の藪の中で薪を集める。長袖、頭の巻物がないと、枝や葉で傷を作ってしまう。目にもあたるので注意が必要。急斜面なので、足元も不安定である。筆者撮影。

棚田の畦道とは別に、山林に上る石段があるが、この石段は昔からあるという。たまに崩れたり、歪んだりするので補修するらしい。日常的なことは、記録として控えておくこわけではないので、うろ覚えである。聞き取りしても正確にはわからない。質問者に同情して、納得しやすいように、たまには喜ばせるように話してくれたりする。いつ、何人でどのように補修したのか、厳格にはよくわからないが、概要はわかる。

このような実情を無視して、アンケートを配り、多数の標本を集めて、分析しようとする学者も少なくない。質問者は、対面していないのに真面目に回答するのか。質問者はなぜこんなことを聞くのか。質問者はどんな人間なのか。この回答をどうするつもりなのか。個人情報をほんとに守ってくれるのか。こんな心配があるのが普通であろう。アンケートの根本問題は、正直に正確に回答してくれたのか、面倒だからいい加減に回答したのかである。

聞き取り調査の基本は、コミュニケ―ションで、双方向の情報のやり取りである。質問者の気持ちや考えをわかってもらう、どんな人物で、なぜこんなところに来ているのか。相手に、一番わかりやすいのは、質問者の抱いている好奇心である。この一日、午前から午後まで、この一組に同行させてもらうのがフィールド調査である。この一組と出会うにも数日かかっている。



写真(右)2006年3月,中国南部、貴州省黎平県、山村からさらに里山に分け入って、薪を採取し、それを束ねて家路を帰る。山道を下るが、担いでいる薪(粗朶)は重いので、下り道だからといって楽なわけではない。山林から棚田を通り、集落に向かう。筆者撮影。

石段を上るとき、彼らは仕事に入っている。これは重要な仕事で、日本の『エネルギー白書』を書いている官僚やそれを糧に学びをしている大学生にもよく知らないことだ。牛は、脇道の草を食む。何の仕事なのか、どのような仕事なのか考えてもらいたい。同行しながら聞き取りはできるが、相手は働きながらなので、ほどほどにしてついていく。周囲の棚田や里山の眺め、軽装で上るのは楽しいし、帰りは下りだから楽だ。これは、外の人間の発想だ。実は上りより下りのほうが大変なのだ。バイオマス文明は、このような着想から生まれた。


Virtual Lecture Series鳥飼行博研究室やVirtual Classバーチャルクラス掲示もご覧ください。

「途上国環境脅威論」反論コンテンツ

Annual Report on Energy (Japan’s Energy White Paper)


鳥飼行博研究室の左バナー・ボタン「研究業績」には、授業の課題となるレポートを作成するための資料がありますので、まず読んで、それから短冊レポート作成に進んでください。

   研究業績の中ほど「紀要論文」にリンクがはってある下記指定の「紀要論文」を読んで、レポートを作成しなさい。
鳥飼行博(2018)「バイオマスエネルギーの人間開発論 : フィリピンを事例としたローカルコモンズの意義」Biomass Energy in Human Economies
『東海大学紀要. 教養学部』Journal of the School of Humanities and Culture, Tokai University 第 48輯, pp.171-231, 2018-03-30 [本文を見る]でダウンロード
 
世界の再生可能エネルギーの中核は、固形バイオマスの直接燃焼によって得られる熱エネルギーであり、日本昔話「桃太郎」冒頭の「お爺さんは山にしばかりに、お婆さんは川にせんたくに」の状況を踏まえると、人類が優位依頼利用してきた薪や木炭といった有史以来のの伝統的エネルギーであることがわかる。つまり、世界の再生可能エネルギーの中核は、決して「新エネルギー」ではない。
 
しかし、バイオマスの直接燃焼は、煙が出るし、燃えたあとには、カスの灰や煤が残るので、周囲を汚してしまうため、「クリーンエネルギー」ともいえない。他方、電気エネルギーを利用しても、その場では、排気も煙もでないクリーンなエネルギーである。しかし、火力発電のためには、化石燃料を燃焼して熱エネルギーを生み出し、それをタービンを回転させるが運動エネルギーとし、さらに電気エネルギーに変換しなければならない。そして、遠距離の送電も必要になる。つまり、エネルギー変換の過程で大幅なエネルギー損失が起こる。他方、薪や木炭は、上手に燃やせば無駄は少ない。
 
 現代日本の視点では、再生可能エネルギーの開発を促進しようとして、風力発電、太陽光発電が伸長し、バイオマス発電も徐々に普及してきた。しかし、有史以来人類が世界で使用してきた薪や木炭は捨て去られてしまったが、スウェーデンは木質バイオマスを利用するバイオマス発電が興隆した。ヨーロッパ各地でこのバイオマス発電が普及しつつある。さらに、日本昔話「桃太郎」や南北格差の視点で、世界の再生可能エネルギーを見直すと、その歴史、利用者、普及した地域、エネルギーの効率性、クリーンさについて、新たな見識が得られる。中国、インド、フィリピンのようの開発途上国は、環境意識が低い、地球温暖化の取り組みをしていない、温暖化の主な原因となっているとする開発途上国環境脅威論が唱えられてきた。その主張は、学術的文献にあっても、次のようなもので、誤解とは言い切れない。

中国など開発途上国は、これまで地球温暖化対策を強化しようとする国際会議の場で、「われわれは開発途上国なので対象外」だと言い張っている。藤村幸義(2008)『老いはじめた中国』
「COP4(ブエノスアイレス会議): COP4は1998年(平成10年)11月にアルゼンチンのブエノスアイレスにおいて開催され、今後の国際交渉の道筋を定めた「ブエノスアイレス行動計画」が作成された。この会議では主要な論点として、排出量取引等の制度の具体化と同様に、途上国の参加問題が注目されていた。しかし、途上国の自主的約束を議題とするかどうかで会議は初日から紛糾し、結局この問題は議題から削除された。  このように途上国は、温室効果ガスの排出削減に関するコミットメントに参加することに従来と同様強力な反発を示したが、従来の一枚岩の対応が崩れ、一部の途上国が自主的約束に前向きな姿勢を見せるなど、変化の兆しも見えている。」環境省『平成11年版環境白書』

「地球環境問題の責任論: 開発途上国は、先進国が、産業革命以来、経済発展を追求するあまり、自然資源を過剰に消費し、また、大量の廃棄物を放出して環境に負荷を与えてきたと考え、こうした先進国にこそ、今日の環境問題の責任があると主張した。例えば、地球温暖化問題では、大気中の二酸化炭素濃度の上昇の大部分は先進国からの排出に起因するもので、その責任は先進国自らが取るべきものであり、地球温暖化を理由として、開発途上国の工業発展や、森林伐採を制約するのはおかしいというものである。こうした主張の背景には、開発途上国においては、貧困からの脱却が最優先の課題であり、また、それが環境問題への対策としても有効であるとする考え方がある。確かに、開発途上国においては、人口増加とそれにより加速される貧困により、生存のためにやむなく自然を犠牲にし、こうした自然環境の悪化がさらに貧困を加速するという悪循環があり、この悪循環からの脱却のために経済的な発展が必要となっている。
 他方、先進国からは、今日の地球環境問題は全世界共通の問題であり、温暖化やオゾン層の破壊などの地球環境の悪化の被害は、先進国、開発途上国の区別なく受けるのだから、先進国、開発途上国を問わず、地球環境問題に対して共通する責任があり、協力して取り組まなくてはならないと主張した。」環境省『平成5年版環境白書』

  しかし、開発途上国環境脅威論は、気候変動・地球温暖化の原因となるエネルギー消費の1点を見ても、温室効果ガスの排出、再生可能エネルギーの南北格差を正確に把握して主張されているのであろうか。開発途上国は環境意識が低いために、温室効果ガスを出しまくっているのであろうか、環境教育を受けたことがないから再生可能エネルギーを知らず使っていないのであろうか。これに対する批判的検討は、コロンブスの卵のように簡単なのか、コペルニクス的転回のように哲学的にも難解なのか、環境政策や国際的な環境協力を考えるうえで、重要な課題である。

課題サンプル

Report writing


「環境政策I/II」授業には、教科書拙著『開発と環境の経済学―人間開発論の視点から』東海大学出版部を手元に置くことが前提です。教科書ページを指定したレポートも課します。受講にテキストは必須で手元にないと授業は理解ができません。

<レポート課題サンプル>
実際のレポートのサンプル。

講義コンテンツと鳥飼研究室の左側バナー研究業績の「紀要論文」鳥飼行博(2018)「バイオマスエネルギーの人間開発論 : フィリピンを事例としたローカルコモンズの意義」から南北別最終エネルギー消費の差異を熟考しなさい。

世界の再生可能エネルギーはどのようなもので、どのように消費されているかを、南北別最終エネルギー消費の差異に注目して、説明せよ。そして「日本は地球温暖化対策を頑張っているのに、開発途上国は無関心で、再生可能エネルギーの重要性を認識しておらず、何の温暖化対策も取ろうとしない。これが温暖化の最大の問題である」との開発途上国環境脅威論を具体的に検討せよ。
但し、鳥飼行博左バナーボタン「アジア写真集」(http://torikai.starfree.jp/photo/photos.html)所蔵
(左段)中国 薪採取とバイオマス Harvesting Firewood in Commons
(右段)フィリピン 山村の鍛冶屋ナタの鍛造 Blacksmith at Lubuagan
を閲覧して掲載写真のディテールを具体事例として引用しながら考察すること。

1)manabaに掲載される課題レポートをワード(Word)で作成、添付ファイルとしてレポート提出機能で送信。PDF、写真などに変換したもの採点整理できませんのでWord文書を提出してください。
2)文字数は、1000文字以上3000文字以下の予定。
3)レポート本文には,ふさわしい題名,学番,学生氏名を明記。
上記は課題サンプルなので退出には及びません。

東海大学HK社会環境課程

TorikaiLab, Tokai University

大学での講義「環境政策I/II」「開発経済学」「環境協力論」は、持続可能な開発を、開発途上国、地域コミュニティの視点も含めて、経済学的に分析する授業です。俗説とは異なる議論を展開し、批判的検討能力を身につけます。

当研究室へのご訪問ありがとうございます。論文,データ,写真等を引用する際は,URLなど出所を記載してください。ご意見,ご質問をお寄せ下さる時には,ご氏名,ご所属,ご連絡先を明記してくださいますようお願い申し上げます。 連絡先: torikai@tokai-u.jp
〒259-1292 神奈川県平塚市北金目4-1-1 
東海大学教養学部人間環境学科社会環境課程
鳥飼 行博 TORIKAI Yukihiro
HK,Toka University,4-1-1 Kitakaname,Hiratuka
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